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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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夜明けよりニュース聞きつつひと日過ごす危ふしイラクの日本人三人 |
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大量破壊兵器などつひになきものをアメリカ兵死す昨日もけふも |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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ほとんどが無駄と知りつつ新聞を切り抜くこれも老いのすさびか |
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切り抜いておいて良かつたと欣喜することもあるなりそれだけのこと |
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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生涯かけし大き画業をみめぐりて充ちて帰り来夜(よ)の石みちを |
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学生のなかに聴く弟の最終講義まざまざかへる父のその日の |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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歩みゆくわれにサクラの降りかかる新校長を励ますごとく |
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入学式に話す言葉を考へつつ運河に沿へる道歩みゆく |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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貝母萌え東一華のつぎて萌えわが生誕の二月となりぬ |
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煙立つ明日香の刈田にトラックは春耕まへの肥料をおろす |
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○
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東 京 |
石井 登喜夫 |
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わが生の予後をあらまし聞きたれば立ち出でて来ぬ春の日ざしに |
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たのむべき神なきわれに救済のかがやきに似て菜種群れ咲く |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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信州松本の古書肆にアララギの香気充つ『ふゆくさ』『春山』『清峡』ありて |
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ここにして『町かげの沼』を見るものか五千五百円の値札付けたり |
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○ |
福 岡 |
添田 博彬 |
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五年先と言はれて心ためらふを隠し得ず銀行のをとめの前に |
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畑なかにミゲルと思へる墓石の出でて涙ぐまし異教徒吾も |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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ひと抱への花買ひ持てりともかくも岡の上の汝がホテル飾らむ |
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村の小さき教会の楼の鐘が鳴るジュラの方よりすさぶ夜風に |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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信濃の峡に釣りし山女を送り来れば思ひ出づ子規のやまべの歌を |
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かかり来し君の電話に心和ぎ霧笛のひびく宵を勤しむ |
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(以下 H.P担当の編集委員) |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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分裂を嘆きて六人来りあふ九十八まで歌詠みし君の葬りに |
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歌のいのちは永遠なりとの議論より又しても分裂に話は及ぶ |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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求めらるるままの有事にて動き出せば次々是認するかこの国の民は |
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六十年つづきし平和を稀有として戦時の国となりゆかむとす |
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