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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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今の今手に取りしものを姿なし逃亡癖ある辞書かと思ふ |
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白き花咲きにほふ路地にどくだみの語源を考へ歩むも楽し |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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雲南の産とし聞きて求めたる雲南唐松草咲くなよなよとして |
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節黒仙翁サーモンいろの花一つ声張りあげて妻を起こしぬ |
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○ |
東 京 |
三宅 奈緒子 |
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ともどもに齢(よはい)たけしかこの友と寄り歩むなり白壁のまち |
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錦川にそふ竹むらの春のいろ身にしみ橋をわたり切りたり |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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七十四過ぎし齢と諦めて今日の一日も過ぎてゆきたり |
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つりふねの花の咲く沢に沿へる道下りゆきにき共にてありき |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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白鳳の石の仏と扉へだてまどろむときに人来るなかれ |
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下る道におのづから沿ふ用水路田植のまへの水ほとばしる |
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○
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東 京 |
石井 登喜夫 |
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石手寺に向ふ遍路は夫婦らし坂ゆるやかに曲りゆきたり |
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牡丹桜の花房に手をかざす友若わかし病のあともとどめず |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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わが骨も氷河のほとりに埋むべし夜半には星が見守りくれむ |
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夜半覚めてテントのロープを張り直す停滞三日雪降り止まず |
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○ |
福 岡 |
添田 博彬 |
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血縁にあらざる吾は断りて弟らの後より香を焚きたり |
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甘き酒が苦(にが)くなりゆく現実に飲みをり窓の守宮を友に |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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居酒屋の主の声す「母親(ムッター)は早くベットに入れてまた来よ」 |
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牧場の馬も森も眠りて子の営むホテルが丘にひとつ灯点す |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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限りなく舞ひ来る花に包まれて今のうつつを君と向き合ふ |
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饒舌に二人をりたり乱れ舞ふ桜の花を両手に受けて |
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(以下 H.P担当の編集委員) |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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雌雄両性の人類到来示唆をして遺伝子操作はとめどもあらず |
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いち人が雌雄両性あはせ持ち殻にこもるか末世の恋は |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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隠れ家の細く険しき階を上ればブロマイド古りてアンネ住みし部屋 |
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息をひそめ忍び足にてと書き留めしアンネの家の手洗ひぞこれは |
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