|
|
○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
|
ハナミズを垂らすなとぢぢに注意するこの三歳児を喜ぶべきか |
|
こんな家がこの世にあるかと思ふまで日々あきれつつ片づけもせず |
|
|
○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
|
山や野の花は培ふなの戒(いましめ)か枯れし捩花を掘りて口惜しむ |
|
花どきの近き捩花のカタログきぬ滅びしを弔はむと注文したり |
|
|
○ |
東 京 |
三宅 奈緒子 |
|
書きさしし書簡に肘突きし使徒パウロその老いし苦渋の表情はなに |
|
失意のこころいまにつたふるかレンブラント晩年のこの重き自画像 |
|
|
○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
|
出来ることしか出来ないと諦めて一つ一つ片付けてゆく |
|
面近づき優曇華の花を見しことあり過ぎゆきし中のいつどこなりし |
|
|
○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
|
つひに来む別れにそなへ録音せし亡き母の声ときをり笑ふ |
|
反抗期のわが頑なのとき病みて逝きにし父よ語らひもせず |
|
|
○
|
東 京 |
石井 登喜夫 |
|
杖を使はず歩む稽古と出でて来て手の振り方も思ひ出しぬ |
|
よろめきて倒れしときに誰もをらず茫々とせる四五分(しごふん)なりき |
|
|
○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
|
面接官しきりに靖国のこと問ひき会津の裔の吾と知りてか |
|
アララギの恩を忘れぬためと言ひ秘かに歌を詠み継ぎましぬ |
|
|
○ |
福 岡 |
添田 博彬 |
|
涙脆き父が担保にとりし宅地雨の降る日は沼に沈めり |
|
土地の値より税が高しと測量士言へば諾ふ税払ひきて |
|
|
○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
|
古き匠の技もて架け替へられし橋木の香ただよふところを過ぎぬ |
|
待つ君は杖突き来ます囲みたる誰彼の問ひに応(いら)へをしつつ |
|
|
○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
|
伊那谷の草平の疎開せし跡を慕ひ来ましぬ土屋先生夫妻は |
|
側溝に山棟蛇泳ぐをしばし見て奥伊那谷に友らと遊ぶ |
|
|
(以下 H.P担当の編集委員) |
|
○ |
四日市 |
大井 力 |
|
やつと止んだと思ひしときに又しても瞼の痙攣とどまり止まず |
|
思ひ詰め過す二三日まなぶたのふるへが逃げよ止めよと誘ふ |
|
|
○ |
小 山 |
星野 清 |
|
幾たびもパスポート見せてたどりつく搭乗口にて更なる検査 |
|
乗客をかくも疑ひ調ぶるかあるかも知れぬテロにおびえて |
|
|