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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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咳すれば直ちに腰にひびくなり人並みに我も老に入るらし |
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うづたかき本の山をば掻き分けつつふと思ふ今は何を探すか |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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若き日の涙を妻は恋ふるらし今夜は「風と共に去りぬ」のビデオ取りをり |
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山の家作らむと密かに妻が買ひし黒姫の土地見たることなし |
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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石垣りん凛たるその詩と生涯と年ながくわが畏怖して来たりぬ |
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山並みの見えずなりたりオリオンもながく仰がずビル陰に住む |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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山行かずなりて幾年今日見たる雪かぶりたる遠き山なみ |
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浮び来る面わは常にやさしかり現実との隔りはさもあらばあれ |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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月を背に帰りし夜々もありたるを職退きて月の齢にうとし |
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職にありし頃を思へばもう一人のわれを蔑むしばしばなりき |
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○
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東 京 |
石井 登喜夫 |
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病棟に吾ほど元気なるは見当らず八十歳の青年かわれ |
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午前二時目ざめて再び寝ねがたく万葉集雄略天皇より暗誦はじむ |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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立ち枯れし胡楊の大樹おびただし楼蘭王国栄えし跡に |
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厚き板の内なる木乃伊は彫り深く若き女ぞ羽根飾りして |
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○ |
福 岡 |
添田 博彬 |
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賜りし海棠枯れて残りゐる錦木の日に透く紅耐へ難し |
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年々に思ふのみなりし海棠の鉢植見出でぬ君亡き後に |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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たちのぼる秋の陽炎山深く伐りたる杉の放置されたり |
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その技を伝へし親王を尊びて木地師ら舞ふか夜の篝火に |
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○ |
東 京 |
実藤 恒子 |
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元旦もなく勤しみし長沢美津の小論成りてこの年は暮る |
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卒業生三十人の文学者の生それぞれに篭めし一冊 |
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(以下 HP指導の編集委員) |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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許されて家に眠れる束の間をあはれ幼きふるさとの夢 |
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縁側の日ざしのなかに脈かぞふかく過ぎてゆくときのかなしく |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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朝より庭のプールに入る友の若さともしみカメラを向けゐつ |
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この夕べこよなく楽し君の庭の竈に今し焼かれしピザに |
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