作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成17年5月号) < *新仮名遣>  


  宇都宮 秋山 真也 *

まばたきの時の間を寝て醒めたのち過ぎたる年は幾つになるか


  埼 玉 藤丸 すがた *

半年で二年の荒んだ生活をリセットしようと予備校に行く


  川 越 小泉 政也 *

ミャンマーの方角に夕日は傾くが暑さだけは月と共に残れり


  京 都 下野 雅史

金色に闇夜に浮かぶ龍山寺の瓦の上にて竜が踊りぬ


  大 阪 浦辺 亮一 *

後になって言われた嫌味に気が付きぬこれも長所と言えば言えるか


  西 宮 内海 司葉 *

午前一時背後に誰かいるようで髪を乾かすこともできない


  和歌山 結城 界都 *

「家が無い」「年金が無い」「妻も無い」我が人生の予定調和に


  埼 玉 松川 秀人 *

手に取ってヒトデをいじり童心にかえる大人に我も混じる


  千 葉 渡邊 理紗 *

啜り泣き駆け込んできたあの人の一秒前を我は知らない



(以下 HPアシスタント)

  札 幌 内田 弘

空気湿る地上近くを流れ来る靄は忽ち路地を閉ざせり

開け放つことのなかりしビルの窓一つ一つに人は働く


  福 井 青木 道枝 *

夕暮れのひかり青める雪のまち子を橇にひき人の来たれり

連弾もその日その日の気持ありて今日の連弾は互いにそっぽ


  横 浜 大窪 和子

共に踊らむワルツの曲を選びをり小さきドラマつくる思ひに

改憲を唱ふる人らの歯切れ悪し右に左に言葉を選びて


  東広島 米安 幸子

里山を吹き上ぐる風に散る雪の朝の光りにしばし華やぐ

パソコンにウイルス防御を施すも「アクセス不能」と画面開かず


  島 田 八木 康子

静かなる夕べくぐもり鳴く鳩と空調機器のモーター音と

真つすぐに盲導犬は連れゆきぬエスカレーターの一歩手前に



選者の歌


  東 京 宮地 伸一

逮捕するならしてみよ禁煙の条令は憲法違反とうそぶく人あり

押されつつ吊り革持てばほのかにも匂ひて体温も伝はるものを


  東 京 佐々木 忠郎

ゆづる葉の下に老いたる馬酔木一木去年は休みて今年花咲く

老いぬれば馬酔木よ休み休み咲けあるじも気長に生きて眺めむ


  三 鷹 三宅 奈緒子

十二年の辛苦に海をわたり来てつひに故国に帰るなかりし

水墨に描く楊柳のなびきたり和上の故里「楊州薫風」


  東 京 吉村 睦人

体重の減りたるわれかビル風に吹かれてよろよろと歩みてゐたり

どうといふこともなかりし七十五年なほ幾年か生きゆくならむ


  奈 良 小谷 稔

一瞥しコメントされぬ有難さ検査六十数項目の数値並ぶを

まれまれのよろこびにしてコレステロール値一八〇を妻に誇りぬ


  東 京 石井 登喜夫

尿管の存在をはじめて意識せり腹にカテーテルの残る感じに

朝の空に三日月の影あふぎつつ救急病棟に逆もどりせり


  東 京 雁部 貞夫

一度(ひとたび)は行かむと思ひしマカオの町鳩食ふ慣ひの今に続くか

人殺めて南海はるかに遁れたるアンジローは帰朝す聖ザビエー連れて


  福 岡 添田 博彬

堪へ難くなりたる坂に腰を曲げ手を垂らす指が土に着くまで

アジアの平和乱す中国への武器輸出に今こそマスコミは口を噤むな


  さいたま 倉林 美千子

雪に軋むワイパーの音越えてゆくアルプの峠吹雪となりつ

昇りくる日の筋の中に音のして湖の地吹雪きらめきやまず


  東 京 實藤 恒子

四天王脇侍に守られし慮舎那仏人間の愚かを怒りいまさむ

鑑真和上を象徴するか風浪になびき伸びゐる松の姿は


(以下 HP指導の編集委員)

  四日市 大井 力

精神科の受診を結局は諾ひて雪舞ふ街に顔伏せてゆく

雪もよひの空を映せる冬の水湛ふるプール見て立ちつくす


  小 山 星野 清

ともどもに年金頼りて暮す日をかつての児らとわが語るとは

西の東の教員よりの年賀状それぞれに学校の荒廃嘆く


先人の歌


宮 柊二 (歌集『山西省』より)



おそらくは知らるるなけむ一兵(いっぺい)の生きの有様(ありざま)をまつぶさに遂げむ

重大の近きを知りぬ土踏みて分隊に帰るわれらが跫音(あしおと)

暗き灯(ひ)にわれは書きつつなきがらに雨打つ側(わき)は誰(た)が立ちゐむぞ

ねむりをる体の上を夜の獣(けもの)穢(けが)れてとほれり通らしめつつ

ありありと眼鏡(めがね)に映る岩の間(ま)に追撃砲弾を運ぶ敵の兵
                     

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