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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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荒れ極まるわが家に帰り灯を点すああ妻死にて三十年か |
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物ぐさの男二人の住む故に物置となるどの部屋もまた |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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地につきて蔓延(はびこ)りやすき蛇苺抜きて捨つればその土に這ふ |
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「名恐ろしきもの」と言へども蛇苺をわれは愛すその葉も花もくれなゐの実も |
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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「詩歌のことばは光」と言へり上田三四二の言葉は今日の吾を支ふる |
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おのが脚に今日は歩みて万助橋紫橋と過ぎ帰り来ぬ |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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ぶよぶよとなりたる脳の一隅のなほ記憶する一つ悲しみ |
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越境生溢れてをりし今川中学校生徒減りて廃校となりぬ |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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「アララギ」のなき今何と告ぐべきか赤彦の墓に保義の墓に |
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君の庭の胡桃に手触れ嘆くともまことを写す心継ぐべし |
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○
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東 京 |
石井 登喜夫 |
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首すこし傾げて入りて来る少年まもなく二米を超ゆるかも知れず |
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吾もかつて祖父に明かししことありき健康なる「性」と思ひ頷く |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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「西蔵図志」の古りし一枚新たなる生命(いのち)を得たり我が書飾りて
『岳書縦走』成る |
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幾十人かその名書き終へ一服す比叡の見ゆる君が社屋に |
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○ |
福 岡 |
添田 博彬 |
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ミゲルのこと問ひ来し人に少し恥ぢ信無き告げて吾が笑はれぬ |
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桜咲く下に靴履き母と立ちし記憶あるゆゑに生き来しと思ふ |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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橋を渡りまた渡り着きし友の島雨温かし菜の花に降る |
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病み篭る友を訪はむと思ひたちこの夜自(みづか)らが救はれてゆく |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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跳る海老の皮むきくれしを食(たう)ぶればしこしことしてほのかに甘し |
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海賊に襲はれ開放されし三人伊予水軍の海に思へり |
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(以下 HP指導の編集委員) |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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病みて知りしあはれのひとつ何時もいつも人をうかがひ生きゐるおのれ |
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考へ込むときの仕草の吾に似て目元を指に抑ふるわが子 |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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航路示す画面を見れば五大湖が大きく映りニューヨーク近し |
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わが部屋の向ひの五十階建てのビル明かり点らぬまま夜となる |
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