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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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急患に泌尿器科の医師親切なり廊下には友の幾人か待つ |
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なつかしき雲巌寺に詣でかの石段のぼりしことも身にこたへしか |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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どくだみの犇き咲ける庭に立つ葉の放つ香も爽やかにして |
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わが妻を疎みし友の葬りにゆく妻は呟く「逝けば仏よ」 |
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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つねにかたへにあでやかにゐし人は亡く個展会場に今日きみ一人 |
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「激しい人でした」亡きを言ひつつつくづくと終りし二人の経(みち)を回顧す |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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片詣りはいけないとしきりに友言へば元善光寺に来たりぬ朝のひととき |
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元気もどりし先生ならむ選歌稿の欄外に「この添削うまし!」と注記 |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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吹く風のさはやかにしてしきりに散る楓の花を総身に浴ぶ |
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若葉透す光にこの身清められ入りて「樹上座禅」の明恵を拝す |
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○
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東 京 |
石井 登喜夫 |
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をりをりに箸より落つることありて苦しみながら蜂の子を食ふ |
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くれなゐを恋ふるはをさなきアペタイト過ぎてはるかに思ひこそすれ |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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改憲論に若者多きも現実かいつか来た道引き返さむと |
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メーデー歌うたふ列にも行き会はず五月一日都心の街に |
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○ |
福 岡 |
添田 博彬 |
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此処に一年学びし吾を知る桜樹(さくら)花片(はなびら)散れり今日在るよすがに |
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高きより桜散る下に眼閉づ此処に父母(ちちはは)健やかなりき |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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「おもろさうし」読み継ぐ夜半のわが窓を遠世の神かひそかに叩く |
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月光を含みて垣の卯の花も咲き静まれり眠らむ吾も |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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霧うすれしばし浮かびし来島の大橋はまた濃き霧のなか |
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「少し歩かう」と君と出で来し島の港渡し舟一つ入りて来りぬ |
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(以下 HP指導の編集委員) |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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三月の孟宗三月の空のもとひびけり彼の世を恋ひ止まぬ身に |
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又元の頑なの心に戻りゆく薄闇が青みを帯びてくるころ |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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踏み入ればかの青の見ゆ遠く来てフェルメールの絵にまた出会ふよろこび |
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大運河にゴンドラ浮ぶ「ヴェネツィァ」のこの明るさまさにターナーのもの |
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