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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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若き夫婦共に煙草を吸ひ始め煙のなかなりその幼子は |
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ただ一度並び坐りき不調法でと酒ことわりし塚本邦雄 |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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怠りて伸び放題の草の中に日本たんぽぽの絮まどかなり |
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朝覚めて己れ生きゐるうれしさに先づ水を遣る庭の木草に |
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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雪残る山谷くだりくだり来て五月明るき越(こし)のくにの海 |
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良寛のかの手毬(てまり)とぞぬひとりの赤き小さき手毬が一つ |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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学者ゆゑ実験してみるなど言ひて飲みて自ら命縮めき |
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わが心の中にともれる灯(ひ)のごとく折々にして面かげのたつ |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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降る雨にツバナしぼみて覆ふ丘古墳は大津皇子を葬るか |
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凝灰岩の棺のあらはに粗製なり罪人の皇子の証しの如く |
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○
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東 京 |
石井 登喜夫 |
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わが生のあきらめの始まりし広島と感傷して歩みゆく杖のおと |
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心ぐく呉に行きたし父のあと母のあと吾の跡も見たくて |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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五百年の命保てるあららぎに会ひし喜び湯の湧く峡に |
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あららぎの大樹の下の墓ひとつ政宗に敗れし会津の戦しるして |
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○ |
福 岡 |
添田 博彬 |
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高齢者見る間に殖ゆれば賢しらに健康寿命なる言葉出で来ぬ |
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封切らず置けるアララギ終刊号地震に飛びたるを拾ひあげたり |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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わが存在そのものが徒労と口にしてその後意識なし雑踏のなか |
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自らを信ぜよと書きましし在りし日の文字をこころに励む幾日か |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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潮流板の点りてあれば海峡をゆく船人の安らぎにけむ |
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馬島に目覚め聴きをり海峡を過ぎゆく船のエンジンの音 |
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(以下 HP指導の編集委員、インストラクター) |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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たどりつきたる八十六階の展望台摩天楼眼下にして実感のなし |
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思ひゐしより無機質の街は広くしてみどりはわづか川の向うに |
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○ |
札 幌 |
内田 弘 |
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ビル街の街路樹ごとにトラックが作業衣着たる男らを下ろす |
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飛行機の影は雪原を移りつつ巨大となりて滑走路に入る |
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