作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成17年11月号) < *印 新仮名遣い>  


  宇都宮 秋山 真也 *

世の中に繋がるたびに掻き集めた僕の記憶は散らばってゆく


  川 越 小泉 政也 *

雨の中を立ち去る君のうしろ姿涙にじんで見送っている


  京 都 下野 雅史

電線に靴を吊るして慰霊するアメリカの風習に目をみはりたり


  大 阪 浦辺 亮一

永年の湿気に紙の貼りつきし古文書めくる音を楽しむ


  西 宮 内海 司葉 *

午前六時遠のいてゆく白い船波止場に猫のしっぽが見え隠れする


  倉 敷 大前 隆宣 *

早朝の発作に吾はバスタブに落ちて腰をしたたか打ちてしまいぬ


  京 都 池田 智子 *

桜木の枝に張り付き微動だにせぬ修行僧のような蝸牛


  東 京 坂本 智美 *

文字以上の言葉を送って繋がりたい彼と同じ機種に変更


  埼 玉 松川 秀人 *

清々しき杜の都の朝の香が我の五体を包みてくるる


  千 葉 渡邉 理紗 *

理科室の戸棚の上の硫酸をこぼしたような夕暮れのキス




(以下 HPアシスタント)

  福 井 青木 道枝 *

いつのまにか少し汚れて立つわれら若くかがやくふたりの前に

ブルーベリーの茂みのなかにひとりなり篭る熱気に体ほてりて


  横 浜 大窪 和子

コピー機の紙ほぐす音聞こえゐて午後の事務所に眠け催す

五日のちに婚儀控へし若き友の噂届きぬ迷ひてゐると


  那須塩原 小田 利文

一歳児標準にも満たず甲状腺ホルモンの薬も二年飲みしが

吾が書きし父といふ字が疲れ果てし人の顔となり吾を見てゐる


  東広島 米安 幸子

生るるわれに絹の産着を縫ひし叔母新婚にして被爆し果てぬ

被爆せし叔母の縫ひしを衣紋掛けにかけて偲びし母思ふ夏


  島 田 八木 康子

母と通ずる匂ひあるらし一度も我には吠えぬ里の柴犬

お寂しいでせうと盆の僧は言へど心はすぐに言葉にならず



選者の歌


  東 京 宮地 伸一

下弦過ぎし月がのぼりて時も経ず海原染めて日は出でむとす

海のはてに先端出でて時もあらず球体となるをまざまざと見つ


  東 京 佐々木 忠郎

使ひ切れず放置せしまま五月(いつつき)かケータイ解約を妻の言ひ出づ

解約手続しに行く娘も逆らはず吾と妻とのケータイ包む


  三 鷹 三宅 奈緒子

唐屋根の反(そ)りうつくしと仰ぐ塔ひとときを日の照りて翳りて

君が病棟はいづくなりしと跡とどめぬ草地に立つに虫の鳴きたつ


  東 京 吉村 睦人

地球温暖化防止に協力せぬ国を温暖化ハリケーンは繰り返し襲ひぬ

杉本晃一氏大学予科にて同級生なりしを知りしは亡くなりしのち


  奈 良 小谷 稔

高き塔の翼は風に速度増し蓮の花ことごとく炎(ほむら)と騒ぐ

花びらを落ししものは向き向きにその青き実を傾けて立つ


  東 京 石井 登喜夫

こころみに杖を使はず起ち居して今年の会を凌がむとする

病みて癒え病みて癒え来しわれの身の弱々しとも思へずなりぬ


  東 京 雁部 貞夫

わが会津の少年兵よりも更に若し西南の役に仆れし少年 (伊知地 鹿児島・城山)

陸軍少将桐野はいささか物々し人斬り半次郎我には親し


  奈 良 添田 博彬

海に向き傾く道のほの明るく幼く遊びし声蘇る

この窓に蜂飼ひをりしと近づくに紅殻の色いたくくすめり


  さいたま 倉林 美千子

猪(しし)よけの柵に守られふるさとの畑の里芋葉の繁りあふ

莢かげに隠元の花ほろほろと咲き継ぎて畑に夏日あまねし


  東 京 實藤 恒子

滝水に打たるるはわれか迸り落ち来るはわれか瞬時の錯覚

仰向きの蝉を起して外階段を手紙をもちてわれは降りゆく



(以下 HP指導の編集委員、インストラクター)

  小 山 星野 清

夕べかとまがふ電飾の輝けるブロードウェイに明日の切符買ふ

小さきバックも棒に掻き回し検査さるオペラを見むと浮かれつつ来れば


  札 幌 内田 弘

ジャガイモと稲を植ゑ分け麦畑に続く斜りに蕎麦の花咲く

桃色の棚引く雲の中に入る奥尻の岬に日輪歪む


先人の歌


佐藤 佐太郎 『歩道』より



暮方(くれかた)にわが歩み来しかたはらは押し合ひざまに蓮しげりたり

鋪道には何も通らぬひとときが折々ありぬ硝子戸のそと

薄明のわが意識にてきこえくる青杉を焚く音とおもひき

電車にて酒店加六(かろく)に行きしかどそれより後は泥のごとしも

萌えたちし欅並木のはてにして風たえまなき暮がたの空


(都市生活者の哀感が滲み出た作品が多く収められている。)
                     

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