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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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天を貫く浅間の噴火を一度見き諏訪湖のほとりに少年の日に
「北鮮が何をしようと休肝日」一句ひねつて悦に入るけふは (十月九日) |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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文机(ふづくえ)の花瓶に妻が挿しゆけるわれの好みの吾木紅の花
一党支配が弱者を苛(さいな)むこの国の何処(いづこ)にも「美しき日本」など無し |
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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今いまと水に飛び入るを吾ら待ち北極熊はその吾らを見てゐる
そのまなこ金色(こんじき)にして白フクロウただまじまじと吾らを見つむ |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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百年の計であるべき教育が内閣の度に変へられてゐる
幹に洞持ちて老いたる百日紅(さるすべり)秋づきてやうやく花をつけたり |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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穂田の黄と色を分ちて布袋葵の咲く花原のひろき方形
香りなき布袋葵の花原のすがすがし人の香のなきことも |
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○
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東 京 |
石井 登喜夫 |
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さしあたり吾が目に力ありと見て三面鏡の扉をとざす
今さらに子規を恋ひつつ読みながら明治の餡パンの値など思ふ |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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比島にて戦歿したる夫恋ふる刀自の歌見出づ『新昭和万葉集』に
穏やかに病養ふと思ひしににはかに逝けり九十二歳 |
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○ |
福 岡 |
添田 博彬 |
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この人はと診る縮小フィルムの胸郭はまさに吾がもの医の友は無言
三(み)月から二年足らずの命ならむか五十年前ならばかく答へゐむ |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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お遍路の鈴の音寒き日なりきと砥部の茶碗をしばらく手にす
石手寺の春浅きころ従ひき君病みて毒舌を聞くこともなし |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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退院間なき小沢征爾か少し痩せひたぶるにタクト振るを目守りぬ
わが友のアルトの声と重なりて舞台に響くを聴きをりわれは |
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(以下 HP指導の編集委員、インストラクター) |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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七歳まで母の乳房にすがりゐし吾によく似るこのわらはべは
いまだ鱗の整はぬ鯊に包丁を入るるに尾鰭震ひて反らす |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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雪いただくロッキーの空晴れ渡り柳絮降りくる町を歩めり
読書にも飽いて時計は九時を過ぎ窓の雪山に夕日差す見つ |
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○ |
札 幌 |
内田 弘 |
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人を疑へと教ふるは寂しと帰り来て妻は黙々と学級便り書く
歯科医院の治療椅子より見ゆる空ビルに区切られ雲速く過ぐ |
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