作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成19年11月号) < *印 新仮名遣い>


  日 高 松川 秀人 *

メール止めるタイミングさえ難しく感じる私も依存症か



  千 葉 渡辺 理沙 *

できるなら夕日のように美しく八方美人を演じていたい



  高 松 藤沢 有紀子 *

手術場へつながる道は暮し寂し台車の音のみ高く響きぬ



  宝 塚 有塚 夢 *

万葉の歌をメールに書く君に顔を知らない恋をしている





(以下 HPアシスタント アイウエオ順)

  福 井 青木 道枝 *

教室にもの言わぬ日々重なりてきみの声音を知るひとり無し
声あげて今わが前に本を読むきみが自分をとりもどす声


  横 浜 大窪 和子

受胎告知は幻ならむされど尚信仰は薄るるといふにもあらず
下ろされしイエスを抱き悲しめるピエタのマリアわれの心に


  那須塩原 小田 利文

川に沿ふ小径は左に曲りゆき山紫陽花の陰に隠れつ
責められてばかりの今日か帰り路も給油促すランプが点る


  東広島 米安 幸子

甘樫の丘をふもとの浜木綿をひとり心にわが振り返る
雨具着て友の登りし二上の空にほのかなる夕映えのいろ


  島 田 八木 康子

信じたく騙されたきが脳なりとヒトのかなしき性を聞きたり
この家にこのキッチンに疲れたり突つ張つてゐる我自身にも



選者の歌


  東 京 宮地 伸一

ホトトギス今に続くを手にしつつおのづとアララギを悼む心よ
アララギの分裂も今は良かりきと言ふべきかくやしき思ひ消えねど


  東 京 佐々木 忠郎

終刊前に「文明全集」出版せざりしを嘆く歌あれば躊躇はず採る
残生は時々刻々に減りゆくと言ふ妻も吾もよく眠るなり


  三 鷹 三宅 奈緒子

死(しに)票にてよしと人を党を書くわれは一つ思ひ貫かむため
ひと日境に世は沸き立ちて一隅にわれはわがけふの仕事ひろぐる


  東 京 吉村 睦人

土屋先生の東京歌会のわが記録一年一冊四十数冊
いにしへも今も変らず二上の二つの峰を人はかなしむ


  奈 良 小谷 稔

稲やめて田に入ることもなき水か故里の青葉の谷下るらむ
ふるさとより送られて来しこの真清水吾の身深く染みとほりゆく


  東 京 石井 登喜夫

生の前(ぜん)と後(ご)は無と言ひしモンテーニュを思ひ思ひつつ宵早く臥す
歩けないから徘徊の怖れはないといふ言葉するどく胸に刺さりぬ


  東 京 雁部 貞夫

塩の湯を煮詰めし会津の自然塩廃れき専売制の時代と共に
朝々に薬缶に満たすこの清水殊さら旨し宵の水割り


  福 岡 添田 博彬

三四日見ぬ間に名札外されて退院とも外科とも言葉をにごす
テレビ消すも物憂き昼過ぎわが気付く新聞を読む気力の無きに


  さいたま 倉林 美千子

なほ続くぶなの林に影動きとぼとぼと此処にわれ存在す
奥入瀬の流れに沿ひて幾時か身は水音に充たされてゆく


  東 京 實藤 恒子

熱線に焼かれし人らの飛び込みし川ならむ思はずわが黙祷す
戦より還り来し父を迎へたるわれらが家族それよりの生


(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー)

  四日市 大井 力

四つ這ひにならむばかりに登りきて至りしはせまき平の畑
手首より太き浜独活の繁り立つ島の坂道息あへぎゆく


  小 山 星野 清

本当の大学に来て学べよと書きて来し宇井純十八歳の手紙
少年時代の宇井を語りし放映のテープに若きわが声を聞く


  札 幌 内田 弘

音を立て塵芥回収車の止まりたり攻撃的に芥投げつつ
足元のクローズアップに現代の疲労を写して人らの退勤


  取 手 小口 勝次

八年前G8サミット開かれしドイツ迎賓館が今日のわが宿
来年の洞爺湖サミットの会場も山の上にて警護によろし


先人の歌


小泉 千樫 歌集『屋上の土』より




した心君を待ちつつここにしてとどまる電車八十(やそ)をかぞへぬ
ひとり身の心そぞろに思ひ立ちこの夜梅煮るさ夜ふけにつつ
かへり見る鳥居の奥の夕がすみ木ぬれの空はいまだあかるし
空くらく雲たちぬればあはれなる池の緋鯉はあらはれにけり
かぎろひの夕日背にしてあゆみくる牛の眼(まなこ)の暗く寂しも

                     

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