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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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畳の上に坐りて歌評をなすことも久々にして胸迫るなり
遠き昔茂吉文明の師を囲み歌会せしはいつも畳の上なりき |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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望の月見をればいきなり榧の木に一声残し蝉飛び去りつ
まどかなる月指して飛ぶ蝉ひとついたく不器用にして哀れなり |
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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痛む背にコルセット締め北に発つ晒巻きて夫のゆきしははるか
ちかぢかと仰ぐと夫の詠ひし山トムラウシ岳その峡に入りゆく |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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白髪(しらかみ)のまさりきたれど美しく整へられし形変らず
頸すぢのほつれし髪は過ぎし日に変ることなく美しかりき |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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仕事持たぬ齢となりしはらからの五人一夜を枕並ぶる
はらからのそれぞれの寝息聞くことも思ひみざりし旅の安けさ |
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○
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東 京 |
石井 登喜夫 |
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九年生きてひとことも物を言へざりし面影消えずわが思ひまさる
小さなる犬歯をこの世にとどめゐる尚子の風よ今はいづこに |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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朝まだき十勝の川の岸に出づ水勢ひて大河のすがた
二三本莨吸ふ間も晴るるなし狩勝峠の霧の中にゐる |
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○ |
福 岡 |
添田 博彬 |
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鬚の伸びおそきに薬を考へしが髪脱くるまでは思ひみざりき
下痢脱毛予定のごとく現れて放射線障害の図式を思ふ |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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癌の処置終へて帰りし夫ひとり常のごとくに書斎を点す
一つ臓器に癌あることを告げられし夫も灯を消し眠りに入りぬ |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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病重り指導かなはぬ先生ゆゑ速やかにわれはアララギに入りぬ
アララギにただひとたびの五味選のわが歌三首四十年八月号に |
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(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー) |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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つづまりはここだ心だワイシャツをはだけし胸を叩きたまひき(樋口先生)
お互ひに傷付けあひて高めあふ歌のえにしを語りたまひき |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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身命を賭せとのたまひしこの総理身がもたずとて任を擲(なげう)つ
総理さへもキレる日本のあなあはれ施政方針を述べて去りたり |
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○ |
札 幌 |
内田 弘 |
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溶け出だすアスファルトは徐々に固まりてこの街に続く夜の放熱
区切り付け籠りし部屋を出づる時こころ自在に風に吹かれぬ |
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○ |
取 手 |
小口 勝次 |
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二年かけ改築せし樋口一葉館明治の面影失せて新し
今にして思へば哀し二十四歳にて逝きし一葉が札に刷らるるは |
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