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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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朝夕に薬害肝炎の記事を読む何も知らずにみまかりし妻よ
おろさむかと妻の言ひしを思ひ出づ墓前に経をあぐるこの子を |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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真夏日を凌ぎしわが家の守り神蟇(ひき)はのつそり庭を歩める
ブロック材を積みたる陰に戻りゆく雨に沐浴終へし吾が蟇 |
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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かぎりなく父阿部次郎を尊みて病苦押し書きしつひの一冊
その父と和辻哲郎の確執にも大胆に触れて書きたり友は |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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百年前母の学びし所なり恵那山近きこの丘の上
母に会ふごとくに思ふ頂にかかりゐし雲晴れし恵那山 |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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狭心症わが病みてより十年か「新アララギ」と共なる十年
分裂につづく一つの悲しみも淡くなりつつ十年経たり |
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○
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東 京 |
石井 登喜夫 |
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喀血か吐血か何か回されてけふは胃カメラの台上にをり
少しばかり血を吐きてエイズの検査まで受けさせられるのか認印押す |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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加賀の白山下りて来しか靴ぬぎて草に安らふ皆若からず
栃の太樹並み立つ谷の幾曲り天生(あまふ)峠はやうやく近し |
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○ |
福 岡 |
添田 博彬 |
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入眠剤飲む幾夜か過ぎて思ふ色ある夢は稀になりたり
退路なき吾の同意と知りしならむ医師の息子は直に同意す |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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推古紀に生きし加羅爾を追ひてゆく一人の遊びこの夜もまた
知る人の無き会場にものを言ふ頷きくるるに安心を得て |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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歌会終り導かれ来し湖辺の宿ことばなき友を偲ぶ今宵か
平静なれ忍耐なれと病む友への赤彦の文切々として |
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(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー) |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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寺を守る心はお前に向かざりと呟きし父をいま思ひみる
くろぐろと立ちゐるカンナが朱を戻す雲より月の離れゆくとき |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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「実感がないので不思議に冷静です」拉致(ラツェ)にて逝きし夫を言ふ君は
ジムに通ひ十月をかけて備へたる君倒れしか遠き高地に |
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○ |
札 幌 |
内田 弘 |
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足引きて授業に出で行く妻ならむ動く歩道を吾が歩む時
しよしよぼと心弱りて歩む時俄かに怒りの込み上げて来ぬ |
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○ |
取 手 |
小口 勝次 |
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わが暮らし保つ年金を「雑所得」と区分けする役所の旧態依然
若き日の仕事に札勘定せし癖か折れたる札を直して仕舞ふ |
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