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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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後期高齢者などと今さら言ひ出せり末期高齢者といはばよけむに
帰化種ならぬたんぽぽをけふは見出だしぬ疲れて坐る川のほとりに |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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おづおづと憚ることなどあるまいに腰屈め歩む妻を哀れむ
いま少し背筋伸ばして歩めよと吾が前通る妻を叱りぬ |
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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くれなゐの嫩葉やはやはと三月の薔薇園あたたかに人の影なし
令法(りやうぶ)の若葉すがしと歩む園かにかくになほ生くる甲斐あり |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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国会議員は余計なことをするものか例へば映画「靖国」の試写会要求など
流石に「美しい国」の政府なりお年寄りを「光輝高齢者」と尊(たつと)ぶ |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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丹後縮緬の機屋は廃れおほかたは民宿となり蟹の客呼ぶ
一軒のみ機織る音す歩を止めて聴く感傷をひとり憚る |
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○
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東 京 |
石井 登喜夫 |
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珈琲メーカーを床に落して割りたれば何か言ふ筈の妻が黙して言はず
冬を越え得たる思ひもひとしほに伊予のすみれは咲きひろがりぬ |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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星を仰ぎ生の行方を覚りたる古へありき空清かりき
この島にわらび摘みしもはるかにて今年の春も鯛の飯食む |
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○ |
福 岡 |
添田 博彬 |
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朝々の目覚めに右の足先に痺れを感じひと日の始まる
淡雪はいつしか止みて辛夷の肌濡るるに春の近きを思ふ |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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誰も誰も今は憂ひなき声をあぐ越前蟹を目の前にして
一人宿り眠り足りたる寂しさに見てゐる煌々と戻る烏賊船 |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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真白なる富士の火口を見下ろしてわが旅客機はしばしたゆたふ
凪渡る伊勢湾を過ぎし旅客機に飛鳥あたりかと胸あつくゐる |
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(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー) |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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南朝方の兵部卿を守り逃げのびてしのぎし遠祖を記す郷土史は
敗軍の将に従ひし地下侍三騎のひとりに至るみ祖ぞ |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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この年の冬の花壇に保ちこしはこべ色栄(は)え摘むべくなりぬ
お浸しとなりしはこべの大鉢を笑はれながらわが食ひつくす |
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○ |
札 幌 |
内田 弘 |
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鶴嘴を打ちて砕きし一冬の凍(しば)れは三月の日に和らぎぬ
荒れてゐし少年の心よ虫の音(ね)をカセットテープに聞くを吾知る |
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○ |
取 手 |
小口 勝次 |
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イージス艦に衝突裂かれし漁船の親子勝浦港にいまだ戻らず
なにごとも無かりしごとく海凪ぎて鴎群がり吾がうへに鳴く |
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