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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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酒よりも旨しと知れり夜半に目ざめ飲む北アルプスの天然水は
気安しとも寂しとも思ふ女住まぬこの家に暮も正月もなし |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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函館より家移る時荷に入れし鈴蘭は増ゆ下井草の庭に
女子修道院の丘の鈴蘭よく薫る七十年前にわが掘りしもの |
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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月光菩薩のみ前にしりへに足曳きて仰ぎて倦かず充ち充つるもの
古き仏に心ゆらぎて帰るとき咲きみちて香りを放つユリノキ |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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川戸へと下りゆく榛名の裏道に二十年前採りし黄釣船
二、三日咲きつづけたる釣船の今朝は細長き莢となりをり |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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花あまた白く清らに垂れて咲く宝鐸(ほうちゃく)草に膝触れて過ぐ
文明説を顕してわが掲示しぬ竜在峠の杉暗き下 |
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○
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東 京 |
石井 登喜夫 |
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家出でて逃れゆきたる夜を知る早くみまかりし末の叔母トキノ
肺病のやくざにお前はやれないと怒鳴りゐし祖父の声父母の声 |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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この崎に底ごもり響く海潮音まさしく聞けり「跡位浪」の音を
時化なれば食らふ魚なき浜なりと命迫りし節の嘆き |
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○ |
福 岡 |
添田 博彬 |
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朝々に副作用ある薬のみいつまで癌と共に生き得む
変形が定まるまではと腰椎の手術は早しとこの医師もいふ |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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割り切れぬ世界に住める「今唐九郎」此処に一人居て話は尽きず
八百束の薪(たきぎ)投ずるその日をいふその日の君を見たしと思ふ |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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さざめきて花の下を帰り来ぬ子規を読みこの月の歌会も終へて
柔らかき声に呼ばるる思ひして目覚むればまどかなる月のしたびに |
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(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー) |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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三十余年住まず近所迷惑の家土地離すときは至るか
ふるさとに繋がる家土地売るこころ定めて夏蜜柑の花に会ひにゆく |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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九条違反の判決を下ししは定年を目前にせる裁判官なり
再びの妻を得て明るき絵となりしシャガールを言ひき妻亡き兄が |
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○ |
札 幌 |
内田 弘 |
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建てかけのビルの鉄骨の間(ま)を透きて夕日が吾を包み込めたり
橋の名のひとつひとつを確かめて渡りゆく時夕日となりぬ |
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○ |
取 手 |
小口 勝次 |
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市川の駅より北は「万葉の道」手児奈詠みし歌口ずさみゆく
即詠を出して歌会まで間のあれば明日せむ税務計算浮かぶ |
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