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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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来年の歌会にぜひと言ふ電話生きてゐるならとけふも答へぬ
夜半に目ざめ原稿用紙に向ふ時ひと口飲むを己れに許す |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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昭和五十三年恰も今日の吾が齢威儀正し読まむ文明先生のみ歌を
十月十五日秋のさ中の良き日なり先生の百二十六首こゑ高く読む |
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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黄の上衣の女壺よりミルク注ぐそれのみの画面にまたき静謐
さまざまを削除してつひの単一に仕上げきとこのフェルメールの手法 |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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漱石に「君し帰らばおくつきに草むしをらむ」と子規は送れり
行方不明となりゐし経緯を明かさぬを条件に返還されし『竹乃里歌』 |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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兵の日の中国語を恋ひベッドにて兄は講座のテープを聴きし
足萎えを人に見らるるを憚るかわづか三軒残れる村に |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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川床に暑さしのぎし日もありき鮎の「うるか」に盃を重ねて
これからは茛は「悪魔」と書くべしとガラス戸拭きつつ妻は威嚇す |
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○ |
福 岡 |
添田 博彬 |
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CTにて腫瘍の位置を規整され針のごときに忽ち刺されぬ
胸水のあるとき痛まず過ぎたるに細胞診てより時折痛む |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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少年の日が甦ると静かなる論の電話はボンよりのもの
教会もギムナジウムもそのままに首都ならぬボンは穏しと言へり |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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妻君の病を気遣ひ張りのある電話の声は逝く二十日まへ
「文語去りなば短歌はあらじ」と詠みましし片山貞美氏逝きしを惜しめり |
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(石井登喜夫選者は入院中のため欠詠) |
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(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー) |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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癌手術四箇所五たびをしのぎ来し叩き上げ憲兵義兄あやふし
憲兵のままの帰還のいきさつを語らずこころを閉ざしし一生 |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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白み来し窓を開けばたひらかなる利尻の海を照らす月光
ウニを割きてみたしと言へる妻のままに市場の隅に割くを見てゐつ |
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○ |
札 幌 |
内田 弘 |
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湯豆腐の崩れゆくまで酒酌まむ一人の夜のこころ貧しく
地下街の人口滝に屯する人らはそれぞれの孤独のままに |
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○ |
取 手 |
小口 勝次 |
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友らが拭き清めし野水ビルの部屋難なく家主に明け渡し終ふ
新しき発行所に初めて行く今朝ははやく目覚めて心昂る |
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