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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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財布忘れけさも足早に戻り来ぬ晩年の母を思ひ出しつつ
往来する車烈しきこの街路ためらひ越ゆる黄の蝶見守る |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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吾ほどに古里恋ほしと言はぬ妻も函館が写れば呼びに来るなり
砂山に立待岬に妻と決めし汝とし逢ひて歌を競ひき |
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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海に注ぐ川をちかぢかと夫と見きいまは渺々とつづく砂丘(すなをか)
いちめんに穂すすきなびく石狩浜去りておとなふ日のまたありや |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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この幼なの記憶に我の残らむか正しく直くあらむと思ふ
今日われに何にもまさる宝物「ぢぢに」と幼なの言(こと)付けしパン |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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管により酸素補ひ苦しかる息にも君は歌会つとめき
寺の坊に仮住みの君を訪ふみ歌遺りて君も先生も亡し |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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山岳遭難史に特異なるこの例刻むべし歩みばらばら命落とせり
人寄せて山行く商法止めさせよ死者を鞭打つ訳にあらねど |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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国も言葉も異にし暮らし三十年時々の思ひ告ぐることなく
凍る樅凍る街蝋燭を売る媼旅立たむ願ひたちまち兆す |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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幾度か重傷を負ひ帰り来て「鎮魂のニューギニア」を絵に彫刻に
炎熱に斃れし馬の潤む目を彫りて残せり共に戦ひて |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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情篤く金に使はれ終りたる父君を嘆き恋ふるみ歌よ 悼添田博彬氏
自が終焉に何思ひけむ医師として多くの命送り来りて |
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(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー) |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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君の詠ふ深田久弥はわが友の媒酌人にてただ一度見し
ビッグホワイト登頂してより娶りし友披露の宴にただまぶしかりき |
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○ |
札 幌 |
内田 弘 |
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垂直に眠りに墜ちゆくこの夜は二の腕あたりに痺れの残る
三叉路に立ちて迷ひを打ち消さむ取敢へず行け時雨の街を |
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○ |
取 手 |
小口 勝次 |
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長良川の鵜匠は六人宮内庁式部職にて鵜飼を守る
鵜の小屋に声を潜めて近づけば動かず鳴かず丸き目を剥く |
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