作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成22年1月号) < *印 新仮名遣い>


  福 岡 稲村 敦子 *

深夜二時明日のテストも気になるけれどふいに聞きたいあなたの声を


  宝 塚 有塚 夢 *

ファンタ飲む部活帰りの中学生はテレビのCMのように爽やか


  大 阪 目黒 敏満

一人住む父訪ぬればふぞろひな野菜サラダと我をもてなす


  高 松 藤澤 有紀子 *

教師の服は急ぎ脱ぎ捨て吾が子の懇談へ心配症の母親となりて




(以下 HPアシスタント アイウエオ順)

  福 井 青木 道枝 *

この夜を洗い髪にて弾くバッハふかく澄みたる音におののく
手より手に受けたるもののあたたかさ大豆数つぶ媼の手より


  横 浜 大窪 和子

唄に踊りにその表情にジプシーの嘆き伝ふる夜のフラメンコ
脚を震はせまた踏み鳴らし踊る姿かなしみはわが心にとどく


  那須塩原 小田 利文

黴吹きしを危ぶみ再生せしビデオが映すよ吾らの結婚式を
座り心地良ささうなサルノコシカケに蜆蝶来て羽根を閉ぢたり


  東広島 米安 幸子

リハビリを終へて立ち寄る孫と娘の布団を干して朝より待ちぬ
歩けぬ児の入園願ふも遠回しに或いは言下に断られしを言ふ


  島 田 八木 康子

ゆく川の流れのままに蛇行する蛍の群舞よ遠き古里
あはれとも疎ましきとも平原を稜線のやうに歩むわが癖



選者の歌


  東 京 宮地 伸一

いやしみて常に見しかど改めむ寒さに堪へて咲けるたんぽぽ
神田の通りに添ひて花咲く曼珠沙華ああ今のみと腰おろし見る


  東 京 佐々木 忠郎

友の庭のあららぎの大樹は見事なりき今年も紅き実の果実酒届く
あららぎの実を軽度の焼酎に漬けしとふ透けたる瓶に紅く美し


  三 鷹 三宅 奈緒子

いまわれの沁みて帰りたき場所はかの海見ゆる卓父母のゐて
フルタイムに勤めつつ厨ごとせし日々よ茫々と思ひ出づるときあり


  東 京 吉村 睦人

一つ雲流れゆきてまた一つ似たやうな雲が近づきてくる
四手のごとき花穂持つゆゑシデと言ひ実の落つる様よりソロの木ともいふ


  奈 良 小谷 稔

豊かなる葉をひろげたる白菜よ台風に汝を守るすべなし
台風を迎へむと闇を睨みゐしかの緊張も過ぎてすがしむ


  東 京 雁部 貞夫

森田草平晩年過しし寺二か所伊那谷深く入り来て知る
漱石の娘を友と争ひし草平思ふつひの御寺に


  さいたま 倉林 美千子

遠き地に何を喜び生くるかと立ち止りたり橋の半ばに
時経たるものの静けさ潮入りの口塞がれて水淀みたり


  東 京 實藤 恒子

うねうねと入りゆく道の遠くして四度となりぬ泰阜(やすおか)村は
山幾つなだれ込みたる谷の底ひ水の光りて橋渡りゆく


  四日市 大井 力

葦の風をカヌーに聞かむと子等誘ふ幼等が呼ぶ遠き電話に
吾が少年より教はる夏の大三角また白鳥座澄める夜空に


(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー)


  小 山 星野 清

九十九里の白波を小窓に見下ろせば母乗せやらざりし悔い今になほ
露スケの奴と言ひて言葉を継がざりし従兄を思ふまたシベリアの空に


  札 幌 内田 弘

手配書の横顔が吾に似てゐると気付けば憂さはいよよ募りぬ
浴室のガラスの向かうに音立ててシャワーに洗ふ妻が霞めり


  取 手 小口 勝次

庄川に沿ひて平家の末裔住む荻町集落を静かにめぐる
雪に耐ふる合掌造りの梁厚く正三角形に組まれて太し


先人の歌


『設楽かつみ遺歌集』より

・侘しき歳晩と思ひし雨の日けふ日本よりの小包届く(昭60)
・墜落せし日航機に生存者ありしことひととき吾のこころ震へつ(昭61)
・アルコ・プラザを日本企業が買収せり侵入し来るとふ感じにて(昭62)
・アメリカに来てひらけたる一生かとしみじみ思ふ夫亡き後に(平1)
・わが生きて在ること今朝はたしかにてHaw are youとナースは笑まふ(平7)

*作者の設楽さん(1910〜1995)は昭和29年に渡米し、ロサンゼルスに居住。
 昭和40年(55歳)からアララギに投稿を続け、のち、其のI欄を舞台に作歌した。
                     

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