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○ | 
  東 京 | 
宮地 伸一 | 
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やつと捜しし本なるをまた見失ふああ煩はしこの世のことは 
椅子を並べ茂吉文明の両先生むつまじく常に話しいましき | 
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○ | 
  東 京 | 
佐々木 忠郎 | 
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何故(なにゆゑ)の終刊か知らず狼狽(うろた)へし彼の日思へば若かりき吾も 
友が呉れし故郷の油彩画うれしけれ朝に夕べに心潤ふ | 
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○ | 
  三 鷹 | 
三宅 奈緒子 | 
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崖のふち歩む心地と言ひしとぞ晩年の父の言葉いま聞く 
みちのくの秋は紅葉の濃くあらむ友らと年々の旅も絶えつつ | 
 
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○ | 
  東 京 | 
吉村 睦人 | 
 
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老いてゆくことは極めて自然ゆゑ焦りも怖れもわれは思はず 
次々とより綺麗な落葉に拾ひかへる幼なと歩む楓並木の下 | 
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○ | 
  奈 良 | 
小谷 稔 | 
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過ぎし年まれなる豪雪にこの山の人らこぞりて村捨てしとぞ 
住み捨てし家あり何かの工房か裸電球昼をともれり | 
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○ | 
  東 京 | 
雁部 貞夫 | 
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八ヶ嶺の南の麓に隠れ里「稗の底」あり樹海の中に 
齢たけて今年会ふなき友三人わらび採らむと山歩きしに | 
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○ | 
  さいたま | 
倉林 美千子 | 
 
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発行所まで付き添ひ歩み自づから病のことには触れず語りき 
「稿料なし」と病みつつ楽しき依頼状応じて書きしよ由なしごとを | 
 
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○ | 
  東 京 | 
實藤 恒子 | 
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降り立ちし渡しの跡どころ砂州を分け迸り来る天竜川は 
貫ける中央構造線に沿へる村豪雨に呑まれし五十余名か | 
 
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○ | 
  四日市 | 
大井 力 | 
 
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背をかへす吾を引止め散る銀杏折しも茜に空染まるころ 
シルル期の頃より風媒遂げて来て何代か今年も黄の葉を降らす | 
 
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(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー) | 
 
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○ | 
  小 山 | 
星野 清 | 
 
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衰へしわが裸眼にもあきらかにオリオンの大星雲見ゆるこの空 
久々に見ゆる昴(すばる)をなつかしみ仰ぎてをれば星の流れぬ | 
 
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○ | 
  札 幌 | 
内田 弘 | 
 
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冷蔵庫の中に芽を出すジャガイモの伸びゆく時の組織の崩れ 
一列に並ぶ駐輪場こそ哀しけれ雪吹き込みてサドル埋まる | 
 
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○ | 
  取 手 | 
小口 勝次 | 
 
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鰤漁の定置網めぐる船の水脈富山の海に深く広がる 
日航の退職者年金切らるるはこれも政府の介入なるべし | 
 
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