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○ | 
  東 京 | 
宮地 伸一 | 
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入院して幾日経にけむ浮世のことすべて忘れて休めるもよし 
戸をあけて時々声をかくる娘心安らぎへふも過ぎゆく | 
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○ | 
  東 京 | 
佐々木 忠郎 | 
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ガラス窓に当たりて何か落ちし気配見れば動かぬ蝉一つ見ゆ 
つづく酷暑を凌ぐと生れし黐に来て鳴きしに哀れ油蝉死す | 
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○ | 
  三 鷹 | 
三宅 奈緒子 | 
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戦後十年還らぬ夫を待つなくて港に強く生くる女は 
終演と出で来し街に海上の雲の影像がゆらぐしばらく | 
 
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○ | 
  東 京 | 
吉村 睦人 | 
 
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幼な子の砂遊び場を覆ひたるビニールのシートに降り注ぐ雨 
核による抑止に頼るは核による報復を招くことを覚悟せねばならぬ | 
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○ | 
  奈 良 | 
小谷 稔 | 
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里山のどこより見てゐる猿どもか留守を狙ひて畑を荒らす 
椎茸は軸のみ食ひて笠は捨てる猿の習性も初めて知りぬ | 
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○ | 
  東 京 | 
雁部 貞夫 | 
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末期癌の「宣告」受けし文生々しヒマラヤに絵筆振ひしわが友なるに 
丸山ワクチンに頼りて凌ぐ友の日々秋の個展に命かけると | 
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○ | 
  さいたま | 
倉林 美千子 | 
 
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種の弾けし立浪草の群落に茜染みゐて父の忌近し 
父の知らぬ新社屋にも十年か編集職をつひに退くべくなりぬ | 
 
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○ | 
  東 京 | 
實藤 恒子 | 
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かんかん帽に浴衣の弟は相談役山車のまへゆけば亡き父思ほゆ 
赤白の昇り旗五色馬簾あまた十余の出車の川に競り合ふ | 
 
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○ | 
  四日市 | 
大井 力 | 
 
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行方不明の百歳を越ゆる老人も帰り来よ宇宙船はやぶさのごと 
七年余宙をさ迷ひ帰りつき身を燃え尽し地球に果てぬ | 
 
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○ | 
  小 山 | 
星野 清 | 
 
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人間の尊厳をいふは易けれど衰へし様は斯くの如しと兄は 
苦しまば人は誰でも死を待たむ浅き息にて兄はつぶやく | 
 
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(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー) | 
 
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○ | 
  札 幌 | 
内田 弘 | 
 
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椅子ひとつ空けつつ座る慣ひなり居酒屋「かんろ」に夕べの静寂 
許し難き彼も彼女も呑気にて「ああさうですか」とはこの馬鹿野郎 | 
 
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○ | 
  取 手 | 
小口 勝次 | 
 
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切れ目無く富岡製糸を見る人ら学ぶ生徒ら混じり行き交ふ 
母の里の二階にありし蚕室を懐かしみつつ今桑食む音聞く | 
 
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