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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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生きてゐるのか死んでゐるのか分からぬとひとりつぶやく誰もゐぬへやに
追悼文誰がいかなることを書かむ今のうち読みたしと思はざれども |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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あと十日経れば誕生月となる欲も義理もなしただ生きるべし
病む吾が君何とぞ快癒し給へよ此の世に只ひとりの先生なれば |
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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巷(ちまた)より出で来て吾の今日はあふ安曇野にたかく湧き立つ夏雲
しづかなる対岸と見やりゐるときに黄のカヌー不意につらなり動く |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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この友はいつもわれを困らせる今日は孫の歌など作るなと言ふ
時事問題とともにぢぢ問題は今われに最も緊要なテーマの一つ |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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出土せる敷石の列はまぎれなく八角形墳ぞ白整然と
棺置く台石二つは母と子か灯りの照らす石槨の奥 |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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退院の近きを喜び先生の肩に手触れき痩せたまひたり
たまはりし『朝の蛍』はわが宝書き込み多き改造文庫 |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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タブロイド判レイアウト競技に最高点採りてより励みき二十五年を
スタッフは幾変はりして二十五年続けしレイアウト辞めむ時来ぬ |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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相談役の弟は山笠の先頭に甥は担ぎて唯に競へり
神幸祭に関はるも父子二代にて六十余年振りに山笠に添ふ |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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つぎつぎと椋鳥を収めゆく葉群空に茜の極まれるころ
数減りし薊の花の連想の果てはふるさとそして亡き父母 |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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運ばせて病院の枕元に並ぶ本に画集『セザンヌ』が今日は加はる
退院してもう一度本が読みたいと言ひゐし兄よ翌朝逝きぬ |
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(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー) |
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○ |
札 幌 |
内田 弘 |
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熱帯夜のベランダに届くケイタイのメールは優しき絵文字が二つ
十年を住みゐるマンションの人らとのガス管のみの繋がりあはれ |
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○ |
取 手 |
小口 勝次 |
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夏にして湯浴みの客も疎らにて苗場にゆつたり雲の揺蕩ふ
鉄幹ら歌会の仲間十余人泊まりし法師温泉のこの部屋広し |
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