作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成23年1月号) < *印 新仮名遣い>


  高 松 藤澤 有紀子 *

よしよしとキンモクセイの花の香が苛立ちている我をなだめる



  白 山 上南 裕 *

寄せたれば十本の足に水をかき抗う姿の透きて見えたり


  宝 塚 有塚 夢 *

代々と受け継がれてゆく神話さえどこかコミカルに伝える夜神楽




(以下 HPアシスタント アイウエオ順)

  福 井 青木 道枝 *

わが指より弾きいずる音の澄み透る朝なり現(うつつ)にかなしみありて
やわらかく土を起こして種をまく何とはなけれど二人のときを


  横 浜 大窪 和子

時すこし置かば見えくるものあらむおのが心を恃みて眠る
身勝手なこといふ人と思へども抗ふほどの熱意はやなし


  那須塩原 小田 利文

朝の日に目覚めぬ兄の顔のうへに吾が影を落し握り飯食ふ
猛暑なりし夏も過ぎむにただ一人の兄は逝きたり六十一歳に


  東広島 米安 幸子

鳥の子の和紙の袋よりこぼれでる葛粉の白さ際立ちて見ゆ
病めばまづ葛湯に粥に温まりて命養ふわれらと知るや


  島 田 八木 康子

快く時に疎ましくすり替はる人への思ひ持て余し来ぬ
大き声にマクベスの一節を掛け合ひす会場の我ら講師に続きて



選者の歌


  東 京 宮地 伸一

けふは腹をささふるものは何もなし夕べに出で来むものを期待す
この朝も目ざめて風に口ずさむ死にたくもなし生きたくもなし


  東 京 佐々木 忠郎

吾が卒寿の誕生日なれど宮地先生病み臥せませば妻と夕餉す(十月十五日)
十一月二十九日は病(やまひ)重き先生卒寿の日ただ独り籠り祈るのみなり


  三 鷹 三宅 奈緒子

千代田堰(えん)堤にあそびし幾夏の遠々し年へだて今日十勝川こゆ
十勝野をゆきゆきて今日の放たれし思ひよ二日の会を終りて


  東 京 吉村 睦人

弁当を食ふ人去れば本を読むわれのめぐりに鳩ら寄り来る
校正の直し出で来る小一時間この公園のベンチにて過ごす


  奈 良 小谷 稔

老いて病みて農を止めると兄の決めし年ぞ平成二十二年は
兄の最後の稲作はああ稗の中にうづもれて辛うじて三分作とは


  東 京 雁部 貞夫

ひたすらに山の絵かきたしと身を起すその手握れば手力強し
氷河おろしの風がうがうと吹く中に焚火目守りき酒含みつつ


  さいたま 倉林 美千子

国力の無き外交をまざまざと今日はニュースに見て眼閉づ
鰹節を作りしとふ小屋尖閣の島に残りて秋の日穏し


  東 京 實藤 恒子

この明けのながき荘厳拡がれる豊旗雲をあかねに染めて
選歌会に疲れゐしわれを泰阜(やすをか)の友は告げつついだきあひたり


  四日市 大井 力

人悼む歌の会終へ帰るとき雲割れて光の帯が降り来ぬ
雲間より差す日の筋のかがやきて熟田の原を移りゆきたり


  小 山 星野 清

体温を超ゆる気温の昨日今日わが万歩計千を数へず
ごみ捨てに出で新聞を取り込みて後はひたすらに冷房の部屋


(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー)


  札 幌 内田 弘

意欲的なる眼差のままこの昼の動物園の獅子の立髪
角振りて闘ふことも必然にエゾ鹿繁殖の季節に入りゆく


  取 手 小口 勝次

五味保義合評書かむと読み返す岡麓追悼号の五味先生の文
岡麓追悼号の年譜書きし宮地先生いま病みいます


先人の歌


岸 哲男(故人、毎日新聞記者。写真家。中村憲吉門下、憲吉死後土屋文明門)より

この浦に新妻を愛(かな)しみ詠みましき八重折る波よ七十年前(備後鞆ノ浦)
中学生の幼きわが歌を苦しみつつ直しくださりき紙黒くなるまで
ハンカチに包みし先生の気付けの酒ポケットに持ちわれ従ひき
ハイネズを万葉の室(むろ)の木といふ大木になるとも見えずちがふと思ふ
朝捕りし穴子を町角に割きて売る市場に出すより金になると言ひて

                     

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