作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成23年6月号) < *印 新仮名遣い>


  白 山 上南 裕 *

「再稼働は困難である」が白煙の立ち上る様を見て言う事か


  高 松 藤澤 有紀子 *

大聖堂は崩れ落ちしがその前で誓いし我らの絆は今も


  宝 塚 有塚 夢 *

「今日が私の最後の授業」口にせし時不真面目な生徒の真剣な瞳


  大 阪 和久井 奈都子 *

三月は別れの季節というけれどみつけていきたい次の出逢いを





(以下 HPアシスタント アイウエオ順)

  福 井 青木 道枝 *

おさなふたり眠れるときを途切れ途切れに縫い刺しし絵よここに残れり
フクシマと口にのぼるを聞くものかチェルノブイリの響きのごとく


  横 浜 大窪 和子

沖縄はアメリカの国益に叶ふものとつひに本音の漏れたりネットに
資源何もなき国といはれ来れどもこの山川に清き水湧く


  那須塩原 小田 利文

遊びゐる菜月に男の子が投げゆきし言葉は抉る吾が胸を深く
心無き言葉に会はぬを願ひつつ公園に通ふ昨日も今日も


  東広島 米安 幸子

自らも病みつつ母上の介護せる友よ退避は叶ひたりしか
いざとならば何持ち出すも叶ふまじ思ひ付く物纏めつつ思ふ


  島 田 八木 康子

「人生は夕方からが面白い」ここは素直に信じてみよう
やうやうに避難して来し嬰児の瞳きらきら我に手を伸ぶ   東日本大震災



選者の歌


  東 京 故 宮地 伸一

今朝見れば娘は意外に美しく心ゆらげり妻を思ひて
その昔歌のことにてわが妻と言ひ争ひき何を詠みしや


  東 京 佐々木 忠郎

宮地先生病みて七箇月目のみ歌なり酒・鰻・菓子にも見向きせざりき   三月集 I
嗚呼つひに夫(をつと)の君と幼児四人遺して早く亡き妻君を恋ふ


  三 鷹 三宅 奈緒子

死者の数日々増しゆくにただもだす若き日住みしこのみちのくの街
ささやかな営みなべて押し流し流してここにむごき残骸


  東 京 吉村 睦人

厳密に想定せざりし言ひ訳に「想定外」とたはやすく言ふ
昨日には戻れず明日も無き人らそれでも生きてゆかねばならず


  奈 良 小谷 稔

目に迫る津波に咄嗟にハンドルを切りし刹那を姪は一気に
地震にて頓挫せし食のイベントは避難所の姪らへ熱き焼きそば


  東 京 雁部 貞夫

お茶にせむかと言ひし途端になゐ起る校正中の編集室に   3月11日午後2時46分
茂吉先生の短冊かかへ避難せり今を生きゐる吾のしるしに


  さいたま 倉林 美千子

ながき地震(なゐ)やや鎮まりてつけしテレビ海膨れ街をのみ込むところ
崩るる家流さるる船また車怒涛は襲ふ友住む町を


  東 京 實藤 恒子

落つるものなしといへども玄関を開けひとり耐へゐき長きながき揺れに
吹雪き来る瓦礫に捜す親や子やわが庭に杏の花薫れども


  四日市 大井 力

チェルノブイリもスリーマイルの経験も収め得ざりし人智といふか
岩盤のせめぎ合ふ上にこらへゐる列島か目の前の土手の蒲公英


  小 山 星野 清

南島の大き地震の映像をいかに見ますか病めるベッドに   宮地伸一先生
潰えたるクライストチャーチがまた映り共に旅せし君を思ふも


(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー)


  札 幌 内田 弘

諍ひを避けて来しかな冬の去る棚に並ぶは百のふくろふ
歩み来てビルの路地よりあふぐ空鳩の自由もなきかわが生


  取 手 小口 勝次

リュ・シウォン韓流スターの父の家公開されて人ら混み合ふ
八戸に赴任して間なき子の安否わからず震災の二日苛立つ


先人の歌


宮地伸一歌集『町かげの沼』 昭和27年より

砂の上を我が歩むにも散りやすし黄けまんの花紫けまんの花   奥多摩三首
谷川を喘ぎのぼり来て心なごむ青葉が下の積石(ケルン)を見れば
いくつかの沢分け入りて夕暮れつ石の温みにしばし眠りぬ
谷川に足ひたし少年は論じあふ六百余りの基地持つことを   丹沢三首
秋草のゆらぐ峠に立ちどまる山いつかしく少年かなし
紅くなりし山あひに雲の迫りゆきいきいきとせる少年のこゑ

  (注 新アララギ代表であった宮地伸一先生は、去る4月16日に逝去された。本歌集は先生の第一歌集。結婚前の歌であり「少年」は勤務校の生徒。)
                     

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