作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成23年7月号) < *印 新仮名遣い>


  宝 塚 有塚 夢 *

嫌なことあると安定剤に逃げるわたし先は夢の中でしかないのに


  白 山 上南 裕 *

大幅な黒字転換成し遂げて笑顔の社長の株主通信


  大 阪 黒木 三郎 *

協調を心に抱き過ぐる日に「てんでんこ」と言ひし孤独の言葉


  高 松 藤澤 有紀子 *

一年生と同じ顔して前に立つ新採用なり担任教師は





(以下 HPアシスタント アイウエオ順)

  福 井 青木 道枝 *

平成の世の疎開なりわが離れに放射能より逃れ来しご家族
被災せしご家族に離れを提供しおさなごふたり声のあふるる


  横 浜 大窪 和子

けふの嘆きあすの憂ひを抱へつつこの坂道を寒く歩みき
思ひ違へしこと侘びてをり人すくなき夜の車両に電話かかりて


  那須塩原 小田 利文

峡に舞ふ春の雪さへ疎ましき放射能運ぶ死の灰に見えて
菜月笑ひやうやく吾らも笑ふなり大地震の日より七日過ぎたり


  東広島 米安 幸子

写生写実を広く捉へて新しきものを目指すべしと愛媛の会に
先生のみ世に再び戦ひのなかりしことを慰めとせむ


  島 田 八木 康子

何ひとつ無かりしごとく端座する友の傍へに背筋を伸ばす
声高に自賛して己支ふるか止まらぬ口元見て戻り来ぬ



選者の歌


  東 京 故 宮地 伸一

ああ吾も人と生まれて忝なあと何か月生きむにやあらむ
あと百年のちの短歌と世の中を思ひやる時心わき立つ


  東 京 佐々木 忠郎

東日本大震災より一月余(ひとつきよ)身罷るまで作り溜めし歌幾百首有らむ
旨きごと酒に勝(まさ)るもの無しと言ひながら「長く飲まざり」は寂しき結句


  三 鷹 三宅 奈緒子

この春もさくらはつねのごと咲くか無惨に万余の人ら逝きたる
久々にひと日上水に沿ひ歩むかがやきて花のふぶき散る下


  東 京 吉村 睦人

自分は優柔不断だからとしみじみと語りたまひしことのありたり
年々に「春潮会」に続き「潮騒の会」かく引つ張り蛸の先生なりき


  奈 良 小谷 稔

避難所の人らに受くるいたはりの身に沁むといふ独りの君は
戦災に津波に遭ひて八十四この友にいかなる再起待つべき


  東 京 雁部 貞夫

雷門より今戸への道ひた急ぐ御仏となりし先生に対面せむと
十三の時より学びて六十年つひの別れか御柩の君


  さいたま 倉林 美千子

「ボランティア今は充分」と札下げし何人かの若き人と行きあふ
救助物資の山また警備員・ボランティア安否問ふ列の末は何処か


  東 京 實藤 恒子

先生の逝かれしはまことか思ひがけぬへさの電話に耳を疑ふ
この寺のあけびの濃き花のしたゆきかへり己が心もとなし


  四日市 大井 力

先生の残したまひし花かとも屈めり土手のひとつ菫を
すみれ忌と密かにひとり呼びゆかむ四月十六日先生の日を


  小 山 星野 清

季節風強ければやすらへるわれなるか福島原発の崩壊進む
日本の破滅への過程を克明に世界に伝へよと宇井純言ひき


(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー)


  札 幌 内田 弘

昨年(さくねん)の今日の二十時の恋しけれ君も君もまだ呑んでゐた
しんみりと茂吉を話し呑んでゐる俺も仲間にしてくれないか


  取 手 小口 勝次

被災地の惨状見聞きして夜は更くわが市に避難者受け入れも報ず
利根川の水運守らむと祀りたる金毘羅の鳥居割れて外さる


先人の歌


斎藤茂吉歌集『あらたま』 長崎へ 大正六年

いつしかも寒うなりつつ長崎へわが行かむ日は近づきにけり
さむざむとしぐれ来にけり朝鮮に近き空よりしぐれ来ぬらむ
あはれあはれここは肥前の長崎か唐寺(からでら)の甍にふる寒き雨
しづかなる港のいろや朝飯のしろく息たつを食ひつつおもふ
朝あけて船より鳴れる太笛のこだまはながし竝よろふ山

  叙景歌だが大らかな息づかいを学んで欲しい。

                     

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