作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成23年10月号) < *印 新仮名遣い>


  宝 塚 有塚 夢 *

週末はチョコサンデーのごとく甘く寝てるなんてもったいなくて



  白 山 上南 裕 *

塵一つなきアスファルトに囲まれてゴミ処理施設に人影見えず



  大 阪 黒木 三都

我らから見ゆる景色と生徒から見ゆるは如何に異なる



  高 松 藤澤 有紀子 *

もう少し楽に生きよと鍼灸師は我が心にも鍼を打ちゆく





(以下 HPアシスタント アイウエオ順)

  福 井 青木 道枝 *

一心に楽譜読みいるわれの居て思いがけなしわが生(よ)のことも
思い思いに泳ぎきたりて一つ浮きにわれらゆらゆら海の真中に


  横 浜 大窪 和子

河口(かはぐち)を跨げる相馬の白き橋いまか崩れむ橋桁ずれ居て
ボランティアを支へむ募金を口々に呼ばふ学生ら福島駅前に



  那須塩原 小田 利文

原発事故百キロ圏内に暮らしをり人体実験受くるが如く
ほのぼのと語れる声を断ち切りて緊急地震速報のチャイム


  東広島 米安 幸子

十年を病み臥す子規の自画像の黒眼がわれの心を覗く
いろあひもやはらかに描く草花の中の麦の穂構図を支ふ 『草花帖』


  島 田 八木 康子

言ひたきを一方的に言ひ募る老いとなりしか少し会はぬ間(ま)に
潮時は唐突に来て事もなく流れゆくなり日々に紛れて



選者の歌


  東 京 佐々木 忠郎

ベッドより見回す壁に懐かしむ函館観光ポスター飽くことももなく
歩行困難ひとり歩きの出来ぬ身は古里のポスターに「サヨナラ」を言ふ


  三 鷹 三宅 奈緒子

君が遺影と共なる二日終へたれば再び帰るかおのおのの日に 全国大会
家ごもるひと日過ぐして夜となればマジクールつめたきを巻き寝むとす


  東 京 吉村 睦人

約束の鰻食ふことも出来ずなり今日大江戸に一人わが来ぬ
仕事終へ一杯飲みにゆかむとし君ゐるごとく思ふたまゆら


  奈 良 小谷 稔

常に君の心痛めし歌のことば崩れ崩れていづへに行かむ
老いし君に歌をたのしむ自適の日ありしかただの一日たりとも


  東 京 雁部 貞夫

今年また鮎の季節となりたれど会津の山河をセシウム汚染す
「集団となり凌ぐ」形も限界か人を信ずる気風薄れて


  さいたま 倉林 美千子

原発事故さへ無ければ家を繕ひてとうに帰つてゐますと言へり
もうあの家には住めないでせうと語り止むむしろ明るき声となりつつ


  東 京 實藤 恒子

亡き君を心に声そろへ万葉の旅人を悼む六首を読めり
父のつひの齢となりて越えゆかむ試練か耐へに耐へぬけとこそ


  四日市 大井 力

兄と藷掘りし畑がJAの直売店に替りてゐたり
この惑星に人より以前にある藷かとも角吾等の飢ゑを救ひき


  小 山 星野 清

危ふさを知る術のなく住む土地に摘みし新茶が出荷停止に
安全と思へる遠き村里に蓄ふる間に藁汚染せし


(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー)


  札 幌 内田 弘

読めぬメモずらずら残る抽斗に微かに匂ふ母の残り香
海鼠酢に抓むナマコの輪切りさへ哀しきものよけふ母の逝く



  取 手 小口 勝次

株式の市況の格言「小回り三月(みつき)大回り三年」今は信ぜむ
大戦の敗戦国ドイツ・イタリアは脱原発に舵切りはじむ


先人の歌


樋口賢治歌集『五月野』より

犬にむきひとり物いひゐる吾が子嫁ぎてゆかむ日の近づきぬ
母の亡き家を守りて幾年かおろかしきまでにただ従ひて
うつたへし嘆きをききし折々よ戸惑ふのみに貧しかりにき
あくがるる石のこと帽子のこと言ひぬ今日連れ立ちて歩む売り場に
碁を打ちて居る吾に来て暫し居し青年に伴はれ子は出でて行く

樋口賢治ははやく妻ぎみを亡くした。そしてその子を嫁がせる日の感慨である。

                     

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