作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成23年11月号) < *印 新仮名遣い>


  大 阪 和久井 奈都子 *

青梅をホワイトリカーに漬け込むと初夏の匂いが漂ってくる



  奈 良 上南 裕 *

黄桜の広告のようなべっぴんが貰えるのなら河童にでもなる



  大 阪 黒木 三都

ただ独り操縦桿を握る手よ我の生けるをたしかに伝ふ



  高 松 藤澤 有紀子 *

この夏も山を目差しぬ吾が心をからっぽにする場所がほしくて



  宝 塚 有塚 夢 *

色とりどりの金魚のごとき浴衣女性ああ今日は祭、祭だったな





(以下 HPアシスタント アイウエオ順)

  福 井 青木 道枝 *

人を診る日々より帰り子は庭に木材切りて何かをつくる
母親らの手記読みつげば産院よりひとり帰り来しわが日重なる


  横 浜 大窪 和子

起きぬけに体重測る緊張感少し愉しむほどに癒えたり
病みて登れぬ幾月か過ぎいま友らに従ひてゆく秋田駒ヶ岳



  東広島 米安 幸子

鳴きしきる蝉の声のみ子供らはおのもおのもの姿に眠る
此処に来ればすぐ夜になるもうひとつ泊りたいなと五歳が言へり


  島 田 八木 康子

愛称に我を呼ぶ声遠き日のかの人はもうわが内ならず
天翔り来る筈もなき友なれど今日の夕空高くて仰ぐ



選者の歌


  東 京 佐々木 忠郎

からだ利かずなりて三年の老の腰痛み走りて三歩にて止む
左腰の骨の痛みに覚えなし寝相も主治医褒め給へるに


  三 鷹 三宅 奈緒子

「人生徒労」と言ひゐし父をいまに恋ふる人らゐてここに座談の尽きず
ドイツ語の絵本に訳つけて送りくれし若き日の父よ今日はただ恋ふ


  東 京 吉村 睦人

いつよりか虫が怖くなくなりて今日は手の平に天道虫をのす
来ればすぐ冷蔵庫を開けて見る幼なその父親の幼なき日のごと


  奈 良 小谷 稔

ベッドより落ちし夫君を抱へ得ず夜明けを待ちし君の心よ
介護する歌増えゆきてこの吾も要介護のランクを少しづつ知る


  東 京 雁部 貞夫

活きのよき鯵の塩焼き卓にあり青きカボスの露したたらす
さまざまの国に数多の安国寺ルーツはなべて足利尊氏


  さいたま 倉林 美千子

爆発しさうなかたまりとなり天皇制反対のデモ過ぎてゆきたり
摂氏四十度の火光(かぎろひ)揺らぐ交差点デモ過ぎゆきしのちの空しさ


  東 京 實藤 恒子

子や孫に炭坑を伝へむと五十年の坑夫の生活を絵と文に残す
墨をもて初めて描きし六十六歳坑内の手掘りの様を伝へて


  四日市 大井 力

流星を椅子据ゑて待つ軒の先草に縋りて羽化を待つ蟬
懐中灯のあかりのもとにおもむろに背を割りて蟬となる刻


  小 山 星野 清

百四十七日目の新聞にて見るものか「セシウム蓄積量濃度マップ」を
このマップに知らえず牛肉のセシウム汚染斯く拡がりし


(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー)


  札 幌 内田 弘

刻々とわが領域の移り行く傘を差しつつ歩道の上を
空瓶が街川の淵に漂ひて長き間在るを今朝も確かむ



  取 手 小口 勝次

稚内の電力八割を賄ふとふ七十四基の風車を見渡す
札幌に二年住みしが果たさざりし礼文の島に今われは立つ


先人の歌


土屋 文明 『青南後集』より

亡くて久しき人々をまた新しくまざまざと思ふ在(あ)るが如くに
汝(な)がことも夢に見るまで距たりて或ひは楽し夢の中の遊び
十といふところに段(だん)のある如き錯覚持ちて九十一となる
さまざまな七十年すごし今は見る最もうつくしき汝(なれ)を柩に
終りなき時に入らむに束の間の後前(あとさき)ありや有りてかなしむ

                     

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