作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成23年12月号) < *印 新仮名遣い>


  高 松 藤澤 有紀子 *

腹満ちて眠け誘う午後の授業欠伸を隠しぬ児らも私も



  宝 塚 有塚 夢 *

母校の制服の子らとすれ違うとき過去の虚像を見ているようで



  奈 良 上南 裕 *

薄桃の蕾つけたるマンデビラ開きつつ色の深くなりゆく





(以下 HPアシスタント アイウエオ順)

  福 井 青木 道枝 *

あかつきの道に見えくる野の花のどれより深くつゆくさの青
空の下に来たりて坐るよろこびよ手にあたたかく秋となりしひかり


  横 浜 大窪 和子

日本が開発せし技術の報道を見よと誘ふ今宵来し息子は
その技術の一端を担ひしといふ汝の秘めたる小さき力を恃む


  那須塩原 小田 利文

口遊む吾に子も和す「七つの子」夕べ涼しき公園に暫し
今日一日妻に代はりて子を守れば無謀かと思ふ単身赴任は


  東広島 米安 幸子

台風がたまたま逸れてゆきし朝終りに近きバジル摘みとる
食欲のなき児のために焼き立てのクロワッサンを選びてみたり


  島 田 八木 康子

十八枚の障子やうやく貼り替へてけふ彼岸会の棚経を待つ
尾を振りて町を歩みしセキレイが屋根越えて飛ぶ秋となりたり



選者の歌


  東 京 佐々木 忠郎

九十の峰一つ越えて安らぐな追ひかけて来る妻の掛けごゑ
来む年は「新アララギ」に良き年ぞ代表の下(もと)日本一に


  三 鷹 三宅 奈緒子

ひかりつつ靡く茫穂この年も北に来てはやき秋にあふかも
この江差に幾度か若き夫の来て遺せり鴎島の一連十余首


  東 京 吉村 睦人

「死の町」は現実ではないか「天罰」や「ヒステリー」は魂胆あつての発言なれど
「死の町」と言ひし大臣は罷免され「死の町」とせし者らは平然と居り


  奈 良 小谷 稔

なつかしき二階より山脈を見はるかし少年に還るわれと弟
牛部屋の壁に残れる牛の護符撮りて何せむ家の絶ゆるに


  東 京 雁部 貞夫

牡蠣めしを先づは買ひ込み陸奥(みちのく)の母の国への旅ゆかむとす  石巻へ
母の顔久々にして思ひ出ず仙石線に媼ら多く


  さいたま 倉林 美千子

ペルシャ絨毯敷きたるのみに幾度も入り来て座る古き洋間に
何年も蓋開けざりしピアノにも触れたり絨毯の華やぐ夕べ


  東 京 實藤 恒子

そのたびに放射線量を測定し子らの遊ぶ場もなきこの今か
放射線があるから内部被曝するからと内で遊ぶゆゑをゆどみなくいふ


  四日市 大井 力

広島の二十倍の汚染線量を除きてふるさとに戻るといふか
結局はひとりひとりの志に帰結とは文学のみの世界にあらず


  小 山 星野 清

汚染キノコ生ふる山より流れ来る川が我等の街の水源
濁流のあふるる今日の思川(おもひがは)山のセシウムも流れゐるかや


(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー)


  札 幌 内田 弘

胸内を語れば晴れる単純に今宵はカウンターの真中の席
限りなく勤めの愚痴を言ひ募る男よカウンターに零れるぞ水割り


  取 手 小口 勝次

礼文島香深(かふか)港より利尻島鴛泊(をしどまり)港へと名の良き地を行く
利尻にて見つけし蒲公英も外来種宮地先生嘆きいまさむ


先人の歌


伊豆 四首   宮地 伸一

やうやくに青く芽ぶける山の道のぼり来りぬけふは二人して
この海を幾たび見しか傍にけふはつつましく人居りにけり
あたたかき磯の光に二人して白きたんぽぽを掘らむとぞする
たはやすく暮るるひと日か海の果に霞む利島を指さしにけり

今年亡くなられた先生を偲び、歌集『町かげの沼』の昭和32年、結婚をされた年の歌を引いた。

                     

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