作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成24年1月号) < *印 新仮名遣い>


  宝 塚 有塚 夢 *

必要なら見つかるでしょう探し物も自分自身も大切な人も



  奈 良 上南 裕 *

「ファン達の期待は決して裏切らない」そんな歌など見たくもないね



  大 阪 黒木 三都

メールから伝はる言葉のおもてづら顔だけならず心も見えね



  高 松 藤澤 有紀子 *

学校の先生ですかと聞かれたり我の教師臭を嗅ぎ付けたるか





(以下 HPアシスタント アイウエオ順)

  福 井 青木 道枝 *

なにかしら心のかるい今日にして十月のひかりにまた出でてみる
北前船の大錨なり貝の跡おびただしきまま秋の風のなか


  横 浜 大窪 和子

和服着て歩む裾さばき快しかくして日本の女なりわれは
日を浴びて紅に変はれる八重の芙蓉ひらきし白き花に隣りて


  那須塩原 小田 利文

新しく成りしトンネル抜けて通ふ一年のちには閉鎖の職場
閉所迫る吾がセンターの感謝祭紅葉濡らして降る雨寂し


  東広島 米安 幸子

春の花それより早く友は逝き籠りてすぎて木犀のとき
病む母に伐り下さりし臘梅もライラックの木も塀越しに見ゆ


  島 田 八木 康子

ツイッターに友の告げ来し淡き虹繕ひものの手を止めて見る
思ひ出はまつはる蝶を手に払ひ母のもぎたる大き無花果



選者の歌


  東 京 佐々木 忠郎

歩行叶はぬ位で嘆くな忠郎さんと師の言ひ給ふ今朝のわが夢
この年の終らむとして呟きぬ父母より永き生ある幸を


  三 鷹 三宅 奈緒子

遠き日仰ぎいままた仰ぐ飛鳥大仏何に涙ぐましき心となりて
香久山に友ら登りゆき吾ら三人(みたり)ほてい葵花咲く田をゆきかへる


  東 京 吉村 睦人

発行所に行きて仕事する喜びは六十年前と変ることなし
怠りて過ぎゆく日々に名護蘭は太き気根を伸ばしつづくる


  奈 良 小谷 稔

学生の吾が岡山にて会ひし歌人保義佐太郎土屋文明
よき先輩に恵まれしかな度の強き眼鏡の小宮欽冶も居りて


  東 京 雁部 貞夫

塩害に放置されし穂何ならむ稲にもあらず麦にもあらず
塩釜を過ぎて線路の途絶せり代替バスは何処(いづこ)へ至る


  さいたま 倉林 美千子

時代の中に消えゆく一つ出版社あふるる思ひありて読み終ふ
帰り来て座る畳に木洩れ日のなべてがまろき光(かげ)をつくりぬ


  東 京 實藤 恒子

カーブせる長き隧道の排気ガスに一瞬たぢろぐ放射能かと
隧道を出づればカーブ多き切り岸にて白きガードレール匂ふ青葉は


  四日市 大井 力

マイナスの海抜に人の住むべきか見直せと弥富のミュージカル一篇
生きて居ればこその誇りを戻すときあると干拓地の産みし楽劇


  小 山 星野 清

宇井純の死を早暁に伝へくれし君も便り絶ゆ五年経ぬ間に
宇井の葬儀に同級生あまたありしかど便り知れるはわづかとなりぬ


(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー)


  札 幌 内田 弘

閉店のシャッター下りれば傍通る吾が一体をかき消してゆく
地下道より上がれば午後はどす黒き空がぐんぐん吾を飲み込む


  取 手 小口 勝次

地震にて帰宅難民騒ぎありき此度は台風にてまたも帰宅難民
都心にて帰宅難民となるやもしれず鞄の非常食に薬も加ふ


先人の歌


島木赤彦 『柿蔭集』より

凍りたる湖(うみ)の向うの森にして入相(いりあひ)の鐘をつく音聞ゆ
或る日わが庭のくるみに囀りし小雀(こがら)来らず冴え返りつつ
隣室に書(ふみ)よむ子らの声聞けば心に沁みて生きたかりけり
信濃路はいつ春にならん夕づく日入りてしまらく黄なる空のいろ
我が家の犬はいづこにゆきぬらむ今宵も思ひいでて眠れる

                     

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