(平成24年5月号) < *印 新仮名遣い>
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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人にものに終りのあるを年々に知りつつおのがいのち重ぬる
道へだてしマンションの階に灯のともりこの今日ひと日暮れてゆくなり |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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注ぎくれし赤ワインを今夜(こよひ)は飲み干しぬ久し振りに来しジョルジュ・サンドに
表面を取り繕ひて生きてゐるごとき思ひはいつの頃より |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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妻に子に用なしといへ吾が宝と尊ぶアララギ復刻版全巻
歌詠みて六十余年か溜りたる本に声あり面影立ちて |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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飲むが主(しゅ)か食らふが主(おも)かヒマラヤを語りて友ら皆声高し
今一度ヒマラヤの星を撮りたしと末期の癌病む友語り出づ |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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ヒトは滅びの道につけりと吾も思ひ光る机に一冊を閉づ
潤へる音と聞きゐつ夜の木々の梢に触れて雪乱れ降る |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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家屋敷を売り払ひ満州に移住せし荒井孝歌を作らむがため
土深く汝(いまし)の骸は解けをらむと長男を満州に逝かせし孝は |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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虹足の立つ山裾の村あたり目指し来て何もなき日の照る刈田
虹足のなかに入りて虹を見ず遠く離れて移るもの追ふ |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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薄き空気に寝起きして日々エヴェレスト見て過ごしたるわれ若かりき
雪煙を長く曳きつつたちまちに岩の色となるエヴェレスト見き |
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