中島栄一の歌
貧しき様を見らるるがいつも苦になりて心許しし一人さへなし
なよなよと女のごとく吾れありき油断させて人をあざむきにけり
紙の上におのが弱点を書き晒しすがすがと居ぬ今夜ひととき
教養あるかの一群に会はむとすためらはずゆき道化の役をつとめむ
吾をわらふ友らの前によりゆきてしどろもどろにわれも笑ひ居き
中島栄一は1909年奈良県今井町生まれ、家庭の経済に恵まれず義務教育の後商業学校に入るも一年で中退し以後学歴を持たない。孤独の少年期に短歌に親しみ若山牧水の「創作」に約三年ほどいた後1929年(昭4)二十歳のときアララギに入会、土屋文明のもとにその特異な才質を発揮してゆく。1992年(平4)83歳で死去。上に掲げたような屈折したコンプレックスを自虐的に詠んだ作のある『指紋』が注目された。
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