石井 登喜夫 歌集 『東窓集』より
朝読みし電車の中吊り広告のこまかき文字が夜には読めず
旅に疲れ早く寝入りし妻あはれふしくれだちし手を胸に置く
青き空の定点に浮ぶ黒点がさまざまに飛行機となりて近づく
丘の上の虹うつくしと歩みきて田川のたぎち幾つかわたる
ふたつ目の若き短き噺をばまなぶた熱くなりて聞きたり
四列車並行をたのしみゐるうちにわが山手線は遅れはじめぬ
やはらかに丘は起伏し羊群れその果てに霞むロンドンが見ゆ
ロシヤ人ら離れて歩き離れて立ち不思議なる存在感を保てり
大寒の朝の日ざしのあたたかさ何の予感か吾をはげます
谷川の音は狭霧の下にありもろ鳥のこゑ冴えてきこゆる
平成8年発行の歌集から仕事、家族、自然、旅を詠んだ作品をそれぞれ引いた。当ホームページ平成25年2月の「先人の歌」に作者の紹介があるので、そちらも読んでいただきたい。
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