吉田 正俊 歌集 『くさぐさの歌』より
ジョッキあげ飲みほす時に片隅の一群にへらへら笑ふこゑあり
吹く風は清き夜空にとよもして土の中なる虫々のこゑ
雷(らい)ふくむ雲のたむろす北寄りにうごける雲のかぎり知らえず
一日を怠けすごして降る雨にすがしくなりし青葉見てゐる
かにかくに夏も終りの夜空とぞ見てゐるうちに星の流るる
夜ふかく庭の木に鳴く一つ蝉夏ふけ方の空気ふるはせて
馬鈴薯を山と積みたるトラック一つ行きなづみつつ峠を登る
くれなゐは長く残りて秋づきし湖(うみ)のかなたの山あざやけし
朝まだき涼しき窓に眠りゐし猫等もすでに去りゆきにけり
蜩のこゑにかはりし暁(あかつき)の虫々のこゑききて目ざむる
アララギの歌人吉田正俊が昭和三十九年(六十二歳)に刊行した第四歌集『くさぐさの歌』から、この季節の作品を中心に十首をあげた。作歌の上で参考になるところがあると思うので、味わって読んでいただきたい。