土屋文明編『子規歌集』(岩波文庫)より
冬ごもる病の床のガラス戸の曇りぬぐへば足袋干せる見ゆ
床伏に伏せる足なへわがためにガラス戸張りし人よさちあれ
まだ浅き春をこもりしガラス戸に寒き嵐の松を吹く見ゆ
くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる
生れながら模様のかたに心得し不折が書ける釣香爐の図
かしは葉の若葉の色をなつかしみここだくひけり腹ふくるるに
この二月、念願だった子規庵(東京都台東区根岸)を訪ねた。複製ではあるが、子規愛用の座机の前に座り、庭の棚に枯れてさがっているヘチマを眺めた。歌集で親しんでいたこれらの作品が、子規庵を訪ねてみて、これまでにも増して味わい深いものに感じられるようになった。
(歌集にあったルビは省略した。また、漢字は新字体に書き換えた)
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