『緑水』より (昭和四十四年 第二版発行)
小さき舟岸壁につけ忽ちにカリフラワーを売る朝早くして
街なかの道のかたへのカフェーに吾は見てゐる椅子に乗る雀を
煉瓦赤く夕日に染みし橋の下水なめらかに白鳥泳ぐ
ベトナムに平和をと赤く橋の上に大きく書くを人の踏むなし
ハープ置く女王の婿の更衣室婿の位置などを思ひて歩む
移りゆく羊の群れは雨降りてなびくポプラの並木に沿へり
うき織の緑の服にみどりの靴栗色の髪ふさふさと行く
夕べ遠く教会は照りなだらかに起き伏すかげを行くトラクター
覗く者去りて残れる吾に向くる絵を描く青年の碧く澄む眼
アイスクリームを食べながら歩む修道尼パリは明るし光も人も
生井武司歌集。教育事情の視察のために、ヨーロッパ九カ国を歴訪された折の作品。この小さな歌集を手に取り読むたびに、「見たままを写し取る」うたの魅力に引き込まれる。
四首目。ベトナム戦争の頃であったのだろう。今の世の中は、更に大きな暗雲が迫っているように思われてならない。
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