(平成28年2月号) < *印 新仮名遣い >
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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おのおのの嘆きをここに言ひ交はし明日よりはまた励み生くべし
亡き父のいまさばと思ふ弟の手に成りしこの厚き歴史書
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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あるか無きかの風にたやすく揺らぎゐる葉先尖りし印度菩提樹
狭き狭きアララギの中にてなほ狭く一つ思ひを歌ひ来たりぬ |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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間口五間の納屋を建ち上げ吾の生れ力充ちゐし父二十七
選挙権十八歳に思ふ戦争末期徴兵年齢次々引き下げられき |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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原発を持つ地川内の短歌祭かにかく終へて宴を待てり
「鉄幹」と名付けし焼酎振舞はる二杯三杯のど越しのよく |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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マーケットにて直ちに働くわが統覚要るもののみ選る単純化の妙
混沌より統制へ導く統覚の鈍にして言葉一つにあれこれ |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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泰阜村に十回目を来て細ごまと星の見ゆるに昂るわれは
スバルを見るは久々なりと懐かしめばオリオンの腕より星流れたり
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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医師の手をあきらめし人の寄りあへる湯とぞ来て知る硫気匂ふに
寄せ書きに末期癌告げ次ぎて書く「半年の湯治にまだ生きて居ます」 |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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ブローニュの森近きマルモッタン美術館思ひ出でつつモネ展めざす
さまよひしパリを懐かしみゐるときにニュースの伝ふ同時多発テロ |
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