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（平成２８年３月号） ＜ ＊印 新仮名遣い ＞
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| ○ | 三 鷹 | 三宅 奈緒子 | |
| 弟が書き上げ送り来し厚き史書父いまさばと幾度か思ふ 父いまさば笑ひたまはむ弟が生(き)まじめな面にて一瞬テレビに |
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| ○ | 東 京 | 吉村 睦人 | |
| 「繕はぬ」ことと「無精」は違ふのよ今日も一言多き女房 呑川のここの小さき洗ひ堰遡らむと小魚飛び跳ぬ |
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| ○ | 奈 良 | 小谷 稔 | |
| 吾も在りし東京に君の夜学せし孤独なる日も知らず過ぎにき その母と中国に帰しし君の子は日本の言葉忘れゆくらし |
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| ○ | 東 京 | 雁部 貞夫 | |
| 「ヘロインで乱痴気騒ぎ」よく見れば「ハロウィン」なりき吾が眼老いたり ハロウィンを「悪魔の騒ぎ」と書き残す幕末の武士紐育(ニューヨーク)にて |
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| ○ | さいたま | 倉林 美千子 | |
| 友を偲ぶ会終へてたちまち目的のあるかに雑踏の街を歩めり 今日は生きてわが歩むなり駅へ駅へ吸はるる群像の一人となりて |
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| ○ | 東 京 | 實藤 恒子 | |
| はなびらを思い切りちぎりほぐるる心「もつてのほか」はしやきしやきとして 靄ごもる丘の鎮守社にのぼり来てひととき己が心と向き合ふ |
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| ○ | 四日市 | 大井 力 | |
| 君が手を打ちて鵯(ひよ)また椋(むく)を追ひ守りましたる柿を貰ひぬ 養子にと望まれて十歳のためらひのなかりせばいま友が伴侶か |
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| ○ | 小 山 | 星野 清 | |
| 本当に来るか十五年後の小氷河期見届けたくも命は知らず 遠き世のことにはあらず繰りかへし凍るセーヌをモネは描けり |
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| ○ | 福 井 | 青木 道枝 ＊ | |
| 冬に入る谷の茅はら刈り終えて車座に語らう声ちかぢかと 「水の辺にある実だね」夫言い当てぬ冬の湿原に採りし赤き実 |
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| ○ | 札 幌 | 内田 弘 ＊ | |
| 雑然と置きし名刺より声がするこの日に会いし顔が浮かびて 立て続けのファックスは全てやんわりと命令形の頼みごとなり |
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| ○ | 横 浜 | 大窪 和子 | |
| 核兵器削減を共に謳ひをりし同盟国突如身を翻す この惑星(ほし)に戦はず滅びし国ありといはるとも繰り返すまじ過ちは |
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| ○ | 那須塩原 | 小田 利文 | |
| 居心地良き家売るは辛し「親亡き後」の吾が子思ふはそれよりも辛し 病院の売店さへもふるさとは懐かしパン棚に「シンコム３号」 |
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| ○ | 島 田 | 八木 康子 | |
| ストレッチャー押す手のクリーム香り来ぬ手術室より出でし廊下に 膝の裏に日差しを浴びる十五分戸を開け放ちマットに伏せて |
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| ○ | 名 護 | 今野 英山（アシスタント） | |
| 天井桟敷も階段通路も埋まりたり四千人が凝視す闘牛大会 負け多き牛は普通は鍋となる沖縄もとよりビーフイーター |
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| ○ | 松 戸 | 戸田 邦行 ＊ | |
| 北天に浮かぶ柄杓でポラリスを探す習慣未だ続きぬ | |||
| ○ | 東 京 | 加藤 みづ紀 ＊ | |
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体内のコーンスープだけがあたたかい勤めへ向かう駅までの道 |
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| ○ | 奈 良 | 上南 裕 ＊ | |
| 数学の講義の動画をむさぼり見る詰まれば何度も後戻りして | |||
| ○ | 高 松 | 藤澤 有紀子 ＊ | |
| 子どもらが腹をすかせて家で待つ他所の子の世話に精出す我を | |||
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斎藤 喜博（さいとう きはく）の歌
病床にして我が作りたる唱歌を子等に教へぬ雨けぶる夕
斎藤 喜博（さいとう きはく、1911年3月20日 - 1981年7月24日）は群馬県出身の教育者・歌人。元宮城教育大学教授。群馬師範（現群馬大学教育学部）卒。小中学校の教師を経て戦後は民主主義教育の指導者としても活躍し、全国に「斎藤喜博追いて吾らの熱かりきちょうちん学校と揶揄されにつつ」と詠われるような、斎藤実践を目指して努力する無数の教師を生んだ。早くからアララギの歌人としても活躍し、ケノクニ選者をながく務めた。歌集『職場』などの短歌はすべて彼の師である土屋文明の選を経ている。
運動場の準備終りて疲れたりここだくしける白線しるき 文化国家に恥ぢないやうになどと何をいふ我が家は四畳半に六人寝てゐる 憎みつつ選挙トラック見てゐるに手を振りにこにこ笑つて行くよ 闘ふために短歌も武器とせむ文学になるかならぬかは今はかまはず 理不尽に執拗に人をおとしめて何をねらふのかこの一群は 調子のろくなりし夕べの鐘の音眼帯し廊下にうづくまりきく 葦の芽の新芽の匂ふ川のほとりほそほそとわがいのち守り来し
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