過ぎてかへらず
心おこし一人東京に出でて来し若き春の日をおもふしきりに
人を恋ひ人を失ひて北のまち離れし遠き若き日のこころ
人ごみに遠き日を感傷してゐたりけふ何に中也の詩のリフレイン
齢過ぎていま思ふなり若き父の母と別れしのちのこころも
夜の更けの蝕をテラスに仰ぎゐるこのいまのときも過ぎてかへらず
おのがまちをつくづくと歩む日のなくて今日ゆけば家々に沙羅の白はな
「桂若葉」:赤彦文学賞受賞
「アララギ」「新アララギ」「北海道アララギ」の選者として、昨年まで全力を傾けられた三宅奈緒子氏が帰らぬ人となられました。尊敬と感謝の心をあわせもちここに謹みてご冥福をお祈りいたします。