曇りながく 三宅奈緒子歌集「白き坂」より
人責むるこころにたどきなかりしが夕べピーマンを青くいためぬ
熱きスープ飲む間も吾の嗚咽してながくひとりの膳に向きゐつ
榎の木の葉散りつつ曇りながき日に梨を食ひつつ吾は怠る
枯れし胡桃葉匂ふ空地を通ふなり人を嘆くも去年の日のまま
ただ笑みて集ひの中にゐし寂し草地をひとり帰り来にけり
誕生日の夜の他愛なきいさかひを思ひ出でをり柚子しぼりつつ
昨年の9月、病気療養中であった三宅奈緒子先生が亡くなられた。新アララギの選者であり、その作品は結社の内外に多くの愛読者を持ち、上梓される歌集はすぐに売り切れてしまうのが常だった。
「白き坂」は昭和21年から36年に詠まれた作品が収められている、作者の第一歌集である。20代半ばからの、若い揺らぎに満ちた作品を深く味わって頂きたい。
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