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○ |
甲 府 |
青木 道枝 * |
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こんな時がいつかもあった水湛える田のなかの道ふたり静まる
たどたどと母詠むうたを書きとめる命にてあれば欠詠させじ |
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○ |
札 幌 |
内田 弘 * |
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沈黙が犇く地下鉄一両目制服の春が運ばれてゆく
海苔焼いて昼はワンカップ大吟醸ひたすら妻に外出うながす |
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○ |
横 浜 |
大窪 和子 |
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長く長く続け来し会社己が手にて閉ぢしをせめての幸(さいはひ)とせむ
父の世より受け継ぎし社名汚すなく収め得たるを沁みて思へり |
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○ |
那須塩原 |
小田 利文 |
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退職を祝ふランチのカフェ・オ・レにメッセージ浮かぶ「オツカレサマ」と
退職後の一月(ひとつき)くらいは楽しまむ悠悠自適は遥か先なれど |
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○ |
東広島 |
米安 幸子 |
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へこみては直りて詠みこしわれに似る人かと親しみ投稿歌読む
月五首の投稿久しくなる人の老いを迎へて深まる調べ |
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○ |
島 田 |
八木 康子 |
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走つてはいけない廊下を駆けて来ぬ本に目覚めし子が図書室に
生き生きと若やぎゆくと人ら言ふ新たなる職得しわが夫を |
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○ |
名 護 |
今野 英山(アシスタント) |
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連作の掉尾を飾る希望の絵ミュシャはこの時ナチスを知らず
迫りくる大画布(キャンバス)の中に人々の訴へるやうな眼(まなこ)の潜む |
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