新津澄子歌集『疎林の風』より
・あるがままの生を肯はむ湖の面に残る余光の澄みし黄のいろ
・わが裸身覆ふは白衣一枚にてやがて絶つべき乳房息づく
・幾重にも巻かれし胸に今は無き乳房張りくる幻覚のあり
・失ひし乳房のことは思ふまじ生命ありて現に月光を浴ぶ
・再発の予感に怯えゆく朝か光あふれて花吹雪舞ふ
・病みし二年に花つけざりしデンドロビューム今日一斉にあふれ咲き出づ
・一羽また一羽飛び立つ白鳥の湖の真上に行きて輝く
新津澄子 新アララギ選者 (1925年−2016年)
自宅で歌会を開いていた父、新津亨の影響で小学生当時から短歌に親しみ、21歳でアララギに入会した。続いて甲信越アララギ「比牟呂」の刊行にも参加し、長い間、教師・歌人・妻・親として、パワフルな行動力で全力投球し続けた。『疎林の風』の他に第一歌集として『寄生木』がある。一昨年8月25日にその91年の生涯を閉じた。
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