このホームページに於いて長年コメンテーターを務めて下さった小谷 稔氏が昨年2018年10月18日に逝去された。アララギ、新アララギの選者として多くの後進を育てられ、京都産業大学の講師でもあられた。
その第一歌集『秋篠』(現代短歌社、第一歌集文庫)から連作を紹介する。
『秋篠』 小谷 稔
干 柿
父の形見の眼鏡失ひ探しゐる母の音聞ゆ夜の更くるまで
ピストルをひそかに持ちてゐしといふわが祖父の何に怯えしならむ
干柿も売科なれば病むときにわづかもらひき幼きころは
幼くて夜々柿剥きし手触りの冷く堅く今に残れり
ひとり来し山のくぼみに実の赤き冬青(そよご)鳴らして風吹きゆけり
菊の花枯れてしまへば潜みゐしありまきは集ふその冬至芽に
夕映の空を負ひたる葛城の山つつむ靄一日動かず |