『新しき丘』より 小暮 政次
小暮政次は明治四十一年に生れた。太平洋戦争のさ中から終戦までを二十台の多感な時代に送っている。後に長くアララギの選者を務めた作者の、格調高く内容の深い歌を味わってほしい。
雪の道ををののきみだれ行きし日よ狭し狭し吾が理解の範囲は
怒りたる電話かけつつありしとき地震(なゐ)の過ぎしは吾知らざりき
寝息こもるガラス戸あけて夜半あはれ街なかにして杉の上の月
埃吹く風にたじろぐ馬群(ばぐん)ありくれなゐ滴る落日の前
日本語は今も清しくあるらむと海渡り吾が帰り来にけり
絹の如く光り流るる雲ありき薪二三本割れば疲るる |