『柿陰集』より 島木 赤彦
島木赤彦は「アララギ」のなかで、歌の抒情性を削いでいったが、なお残る浪漫性は生涯の最後の作品群をとても豊かにしている。
隣室に書(ふみ)よむ子らの声聞けば心に沁みて生きたかりけり 信濃路はいつ春にならん夕づく日入りてしまらく黄なる空のいろ 信濃路に帰り来たりてうれしけれ黄に透りたる漬菜の色は 魂はいづれの空に行くならん我に用なきことを思ひ居り 我が家の犬はいづこにゆきぬらむ今宵も思ひいでて眠れる