今回はこの欄を借りて、ホームページお休みのためご紹介できなかった新アララギ9月号掲載の選者等作品を、一首ずつですが紹介いたします。
「爺よりも八十七歳若いんだ」母親とともに幼も笑ひぬ
吉村 睦人
今年また明日香の会のとき迫る君が手塩に育ちし会が
雁部 貞夫
仕事持ちて可能と思ふか買物も料理も引受けたなどと易々
倉林 美千子
妹の水墨画五十号一面の「滝」そのとどろきのなかに立ちゐる
實藤 恒子
咲きてはやひと日に終る夏椿朝がたの苔の上にまろびぬ
大井 力
夕方までグラマンの銃撃に脅えゐき沖縄の戦ひ終りし後は
佐藤 嘉一
記念館は三十年にならむとし杖突く老いとなりて来たりぬ
星野 清
杉老いて並み立つここは無人駅たちまち冷たき風にとらわる
青木 道枝 *
脱皮する体を持てず人類は少しずつ器官を成熟させたのだ
内田 弘 *
改札口に入らむとして鳴るスマホあたふた一つの仕事受け取る
大窪 和子
「還暦から二千万貯める方法」といふ記事ならばすぐに読まむを
小田 利文
カーネーションに添へて初めてまごころの球根ひとつ木片ひとつ
米安 幸子
本意ならずドアが音立て締まる例たとへばノブを手に不意によろけて
八木 康子
カペラッチにトルッテリーニ馴染みなきパスタの美味しこのボローニャに
今野 英山 |