昨年、12月4日に亡くなられた吉村睦人先生の最後の歌集『蝋梅の花』からご紹介します。吉村先生はこのホームページの開設当初コメンテーターとして係わってくださった方でもあります。内省的で静かな作品を数首ですが味わってお読みください。
歌集『蝋梅の花』 吉村睦人
小題 「大き筆」 抄
ゆくりなく新宿に妹見かけしが連れを知らねば声かけざりき
諦めがいいんですねと言はれたりわれの心を人の知らねば
グロテスクな都庁ビルが目に入らぬやうビルかげ選びわが歩み行く
負目のごとく思ひてをりし一つこと今日ゆくりなく片づきゆきぬ
罅入りしみ墓に丁寧に水かくる様も正目にわれは見たりき
小鳥来て水浴びせしか玄関の水鉢のめぐり水こぼれをり
通り道なれば今日も寄り拝む満足稲荷のいはれは知らず
幼きより小児喘息に苦しみ来てつひに姉の一生終りぬ
身体弱き姉のどこより出でたるか大き筆にて書きし書残る
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