昨年9月に刊行された『三宅奈緒子全歌集』を遅まきながら手にし、少しずつ楽しみながら読んでいる。そこに収められた第一歌集『白き坂』(S37刊行、作者25歳から40歳までの作品510首を収録)より、特に心に残った数首を紹介したい。
もつとはげしく吾を揺る友ひとりあれ平凡な日ぐれを今日も帰るに
遠く来し髪白きエミール・ブルンナーわが傍らにゐ給ふたのし
トラックの上の吾らに紅葉散り遠く見放けてゆく谿の水
入り来れば昼静かなる水族館いづこともなく黄の光満つ
何時よりか君にも心椅らずなり怠惰にながき日を勤め来ぬ
逢へばただ乱るるものを月白くたちくる空にむきて歩めり
パンの香り桃の香りとこもらせて雨降る夜の部屋にもの書く
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