長年このホームページにも関わり、ご指導を頂いた小谷稔先生の最後の歌集『大和くにはら』から、その末尾の置かれた連作をご紹介します。先生は2018年10月に亡くなられました。この掲示板での数々のコメントを記憶している方も多いのではないでしょうか。優れた歌人が人生の終に残された数首を、心してお読み頂きたいと思います。
歌集『大和くにはら』から 「ふるさとの天然水」抜粋
小谷 稔
ダムに沈む丹生川上社の遷座まへ堀りし秋海棠のつつましく咲く
いちはやく韮の花咲く草むらに抜きいでて白くすがすがと咲く
喘ぎつつしのぎし暑さ忘れよと大根の双葉の列みづみづし
草の実の落つる前にて草を取るその気力体力いつまであらむ
皿のもの必ず残るわが夕餉かかる九十も予想せざりき
仕事無き時間は忙しき患者にて待ち待つ診察会計に薬
エレベーター使はず階を上り下り戻る体力をひそかに測る
入院の外出に帰れば本庶先生のノーベル賞の画像の迫る
薬剤の副作用にて喉渇きふるさとの天然水ひたすら恋し |