今月は三宅奈緒子先生の第一歌集『白き坂』』(昭和37年刊行)からの歌を選びました。
先生は1991年「アララギ」で初の女性選者になられ、1998年「新アララギ」創刊とともに長く選者を勤められました。2016年9月に94歳で亡くなられましたが、ホームページ上の短歌雑記帳には「新アララギ作品評」並びに「選者をやめるにあたって」の言葉が掲載されております。
稲田はるかに黄に耀けば歩みとむあはれあらたに吾は生きたし
何から何まで要領悪く生くる吾を情けなしともすがしとも思ふ
どんな未来をもつのか光る朝潮に手をふり呼ばふ少女らの群
遠くまで霧らふ砂浜少女らは青き水着を滴らせゆく
もつとはげしく吾を揺る友ひとりあれ平凡な日ぐれを今日も帰るに
橇曳ける子らを見てゐしが寂しくなり光りつつ来し電車に乗りつ
野菜籠にひとりのパンを提げながら月はやくたつ坂をおり来つ
梧桐の葉わたる風に出でてゆくわが住む部屋の鍵ふりながら
山鳩が啼くとしばらく聞きゐしが陽の移ろひにまた眠りたり
たちまちに濃霧が火口をおほふさま風吹くなだり立ちて見てゐつ
人責むるこころにたどきなかりしが夕べピーマンを青くいためぬ
ひさびさに橋渡り来て葛若葉ひるがへるさま見れば慰む |