宮地伸一
スターリングラード保てるままに冬越すかこの国境も既に雪積む
の芽を求め求めゆく山の中小さき芽すらも採ましめ給ふ
ワイシャツの白きか否かも調ぶとぞ「清潔感」といふ項目あり
子らのためナイフあたためパンを切る怠り過ぎしひと日の夕べに
しみじみと父逝きし後に思ふことその筆跡をひとたびも見ず
青葉の坂ひとり歩めり妻病めばこの世に楽しきものなくなりぬ
日本語のいよよ崩れむとする時に日本語守りしアララギは死す
雁部貞夫『宮地伸一の秀歌』(現代短歌社)の「宮地伸一の秀歌百首選」より。その秀歌の鑑賞を深める助けとなる本文より、ここでは一首目に関連する文章を引いておく。
右の諸作、中国大陸に於ける生々しい戦闘の場面を歌った出征兵士たちの作品集『支那事変歌集』(昭十五刊)に収められた歌とは異なる印象を受けるのは、宮地作品には終戦に至る迄、直接の戦闘場面に遭遇することがなかったため、却って作品の叙情性の純度が高くなったためである。
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