今年は雪の多い寒い冬でした。梅の開花も少し遅かったようですが、さすがに二月末には陽射しも明るく春の気配になってまいりました。雪国の人々を悩ました豪雪の融ける日も間近です。
今月は三宅奈緒子歌集『風知草』から先生のお歌をご紹介いたします。御夫君の樋口賢治氏(「アララギ」の編集委員として選歌に携われた)亡き後、三年を経ての三宅先生65歳の頃のお歌です。
早春の景のなかに亡き人への作者の心象が静かに映し出されています。 (金野久子)
春の雪
地下教室出でくれば降る春の雪雪は亡き人を思はしめつつ
命せまる夫を看取り雪にこもりにき年々に心痛し二月は
けぶりつつ二月の雨の降り出でてひそけし花咲く前の梅林
白うめの咲き匂ふただひと木にて林の径に人かげは無く
梅のはなともに見にゆかむ年々に言ひて終りき人はやく亡く
肩鞄の重き提げて歩む後かげ一生働きやすき日なかりき
確執といふならねども父と夫の中に煩ひきいまともに亡く
考への行き詰まるときふらふらと日あたるベッドにゆきてわが臥す
ストックの花は夫逝きし季の香りその花房の下に夜々寝る
|